リン・ラセル(1499-MT6)PCクエストノベル(2人)[文章:MTS]


 アーリの別れ

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 今回の冒険者
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1499/リン・ラセル/女/17才/学生兼トーブ家ファクトリーのアルバイター】
【3502/レンヌ・トーブ/女/15才/異界職】
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1.男子禁制の神殿

 かなり古くに建てられた神殿。
 ソーンを司る聖獣の1種にも数えられる、ユニコーンを奉る神殿だ。
 神殿というのは、その奉っている対象に対して、何らかの制約を立てているのが一般的である。
 このユニコーンの神殿…アーリ神殿にも制約があった。
 その制約により、ソーンの住人の約半数は神殿に入る事が出来なかった。
 今、リンとレンヌが訪れたのは、そんな神殿である。
 神殿を支える大理石の円柱は、いくらか輝きを失っているが、それが、むしろアーリ神殿の神秘性を引き立てていた。
 そんな柱が立ち並ぶ神殿の入り口で、巫女が2人を出迎える。

 偉い巫女:「随分と不思議な服を着ていらっしゃいますが…
       女性の方…ですね?」

 無機質な微笑みを浮かべて、巫女は言った。
 肌のつや、顔つきを見る限り、おそらく若いのだろう。
 だが、その無機質な表情と雰囲気が、若さに釣り合わない。
 年齢がわかりにくい、不思議な印象を他人に与える女性だった。
 
 リン:「はい、女性のつもりです」
 レンヌ:「ええ、そうですね」

 男性か女性かと言われれば、二人はもちろん女性と答える。
 特に重要な用事があるわけでなく、何となく神殿に観光に来た事を伝えた。

 偉い巫女:「では、申し訳ありませんが、確認させて頂きます…」

 偉い巫女は無機質な微笑みを浮かべたまま、一礼すると、リンとレンヌの身体に服越しに触れた。
 軽く2人の身体を撫でて、男性と女性の身体の違いを確認した。
  
 リン:「あ、あの、そういう趣味は無いんですけど…」
 レンヌ:「わ、私もそういうのは、ちょっと…」

 少しあわてる2人。

 偉い巫女:「失礼いたしました…
       この神殿には、女性の振りをした男性の方が訪れる事がありますので、少し身体を調べさせて頂きました。
       女性同士でしたら、多少身体を触っても、どうという事はありませんしね」

 リン:「そうですか、男子禁制を貫くのも大変ですね…」
 レンヌ:「確かに、男の人が紛れ込んだら問題ですよね…」

 ボディチェックで女性である事を納得してもらった二人は、入り口の扉を通される。
 ギィー…
 錆びた音を立てて、鉄の扉が少し開いた。
 重い上に錆びている。立て付けも悪いのだろうか?
 偉い巫女が、一生懸命に扉を開けている。無機質な顔が、少し困っている。

 レンヌ:「…あ、私も手伝いますね?」

 レンヌが何気なく手を添えると、錆びた音を立てる扉は呆気なく開いた。
 
 偉い巫女:「あら…随分と力持ちですね?」

 偉い巫女が、レンヌの腕力に驚く。

 リン:「レンヌさんは、無駄に腕力あるんです。
     男の子の前だと、結構おとなしくしてたりもするんですけど…」
 
 リンの言葉に、レンヌが少し抗議する様な目線を送った。
 それから、偉い巫女に連れられた2人は神殿の建物の中に入る。
 外から見えないように囲われた神殿の建物内は、昼間でも自然の光が入らない。
 だが、神殿の中は外よりも明るい位だった。
 数メートル間隔で壁にかけられたガラスの容器の中で、赤々とした魔法の光が灯っていた。

 偉い巫女:「この明かりを絶やさないようにする事も、私達の日課になっています。
       ユニコーンさんは闇を嫌いますから、常に光を以って迎える準備をしているんです」

 神殿の日常生活を、リンとレンヌは、なるほど。と頷いて聞いている。
 もう少しすると、巫女が総出で礼拝を行う時間だというので、2人は神殿中央の礼拝堂で待つ事にした。
 礼拝堂には、角が生えた白い馬の像が飾られている。

 レンヌ:「わぁ、ユニコーンさんですね」
 リン:「随分、大切にされてるみたいですね」

 2人がユニコーンの像に目を奪われる。おそらく大理石で出来ているのだろう。
 この神殿の他の場所にも言える事だが、ほこり1つ残す事も禁じられているかのように、礼拝堂は清掃が行き届いている。
 特にユニコーンの像はきれいにしてあるようだった。
 今は、白い衣装を纏った巫女が1人、ユニコーンの前に跪いていた祈りを奉げているようだ。
 話しかける雰囲気では無いので、リンとレンヌは、何も言わずに待つ。
 カーン…カーン…
 それから、礼拝堂の鐘が鳴った。
 少し甲高い金属性の鐘の音が神殿内に響くと、神殿内の巫女達が礼拝堂に集まり始めた。
 人数は10人程だろうか?
 リンとレンヌは、まず、彼女達の服装や外見を気にしてしまった。
 彼女達は、どんな服を着て、どんな化粧をするのだろう?
 一体、どんな髪の色をして、どんな髪型をしているのだろう?
 同じ女性として、気になってしまう。
 見ると、髪の色はさすがに様々だが、一様に白い巫女衣装を纏っている。年が若い者が多く、まるで、お揃いの制服を着た学生にも見えた。皆、ユニコーンの『声』を聞いて、アーリ神殿へと誘われた女達である。
 ただ、ユニコーンの『声』を聞いたという事は、巫女としてはエリートであるが、そのまま一生をアーリ神殿の巫女として奉げる者は少なかった。
 ユニコーンの『声』が一度聞けたからといっても、その後も聞けるという保障は無いのだ。
 『声』を聞く事が出来なくなれば、神殿に居る資格は無い。そうなれば神殿を離れなくてはならない。
 また、ユニコーンと語らう力を持ったまま自分から神殿を離れ、自分の道を歩み始める巫女も居る。その為、一生を神殿で過ごす巫女は少数だった。
 ともかく、今、アーリ神殿のユニコーンを奉る巫女達が全て集まっていた。
 
 偉い巫女:「さあ、皆さん、祈りを奉げましょう…」

 偉い巫女の声。
 こうして一日に一度、皆で祈りを奉げるのが彼女達の日課である。
 祈りを奉げろと言われてもリンとレンヌには、よくわからないが、他の巫女達の真似をして目を閉じて、祈りを奉げてみた。
 当然、リンにもレンヌにもユニコーンの声は聞こえない。
 数分の沈黙の後、巫女達の祈りは終わった。
 その後に、口を開いたのは一番年が若い巫女であった。
 まだ10台の前半に見える。

 幼い巫女:「やっぱり、私…今日で皆さんとはお別れのようです。
       あはは、本当に短い付き合いになっちゃいましたね…」

 2ヶ月前に、神殿に来たばかりの彼女は、神殿に来てからは一度もユニコーンの声を聞く事が出来なかったという。
 だから、この神殿を出て行くと言った…
 
 偉い巫女:「そうですか…
       喜ぶべき事ではありませんが、深刻に考え過ぎる事でもありません。
       せめて、いつものように宴を開くとしましょう。
       ユニコーンの声を聞いた仲間と語り合った日々が、シルキーさんの財産となる事を願っています」

 沈んだ口調の、偉い巫女。
 ユニコーンの声を聞けなくなった巫女が神殿を離れるのは、ずっと昔からの定めであった。

 偉い巫女:「お客様には、嫌な場面をお見せしてしまいましたね…」
 リン:「い、いえ、そんな事ありません。何かお手伝い出来る事があれば、私達も手伝います」
 レンヌ:「そうですね、せっかくですし」

 申し訳無さそうに言う偉い巫女に、リンとレンヌは、あわてて首を振った。
 さすがに、このまま他人の振りをして帰るのも人情が無さ過ぎる。
 普通は見られない場面を見る事が出来るといえば、そうでもある。
 2人は、巫女の別れの宴の準備を手伝うと言った。
 アーリ神殿の巫女達が、その申し出を断る理由も無く、2人は、それぞれに巫女達を手伝うことになった。

2.別れの宴

 リンは、宴の料理の準備を手伝っている。
 傍らに居るのは、今日で神殿とお別れになる幼い巫女である。

 幼い巫女:「あはは、自分のお別れ会を自分で準備するのも変な感じですよね。
       でも、今日は私の当番ですからね。最後まで普段通りにっていうのも、ここのルールなんですよ」
 リン:「確かに、そうですね」
 
 神殿を去る巫女に、あまり悲しそうな様子は無い。
 それが演技なのか本心なのかは、いまいちわからない。

 リン:「シルキーさん…でしたっけ?
     これから、どうするんです?」
 幼い巫女:「はい、田舎に帰って仕立て屋でもやろうかと…
       得意なんですよ、お裁縫。
       えへへ、この作業着も私が新しく縫ったんですよ?」
 

 作業着…と言われてみれば、巫女装束が先程と少し違う。装飾の華美さが減った代わりに動きやすそうに見えた。

 幼い巫女:「巫女装束のイメージを崩さずに、作業着にしてみたんです。
       結構かわいくないですか?」
 リン:「うわー、ちょっと見ただけじゃ、巫女装束と区別つきませんね。
     お見事です」

 どうやら、この巫女はユニコーンの声が聞けなくったが、別の力を持っているらしい。
 あと何年かしたら、仕立て屋(昔ユニコーンの声を聞いた)として、街で店を開く事も十分ありえる話だと思った。
 そうして、リンは宴の準備を手伝う。馬肉だけは、この神殿では厳禁だそうだ。
 一方、レンヌは別の場所に居た。

 神殿の巫女:「すいません、助かります〜」

 のんびりとした声。

 レンヌ:「いえいえ、大した事はしてませんので」

 レンヌは神殿の入り口の扉を補修するのを手伝っている。
 重い扉を外して立て付けを直すのは、非力な巫女達には難しい作業だったので、長いこと放っておかれたのだ。

 神殿の巫女:「あの、申し訳無いんですけど、もう何箇所か手伝って欲しい場所が〜」
 レンヌ:「はい、こうなったら、とことん手伝いますね!」
 
 まあ、神殿の色んな所を回るのも面白い。レンヌは快く手伝う。
 男手が存在しない神殿で、彼女は重宝された。
 何も無ければ、何も無く過ぎていく神殿の一日。
 だが、今日は、神殿を離れる仲間の為の宴を巫女達は準備していた。
 これからも新しい仲間が神殿にやってくるだろうし、神殿を去る仲間も出るだろう。
 やがて、夜となる。
 幼い巫女を送る、静かな宴が開かれた。
 いつも一緒に居て、寝食を共にしていた巫女達。
 話す事も尽きていそうなものだが、小さな思い出話は尽きる事が無かった。

 レンヌ:「ねぇ、何か一曲弾いてみたら?リン」

 レンヌがリンに言う。
 静かな音楽が似合う雰囲気には違いない。

 リン:「うん。フルートを吹くには良さそうですね。
     では、お粗末ですが一曲…」

 フルートを手にして、息を吹き込むリン。
 その音色が一同の心に響く。
 やがて夜がふけ、静かな宴にも終わりの時は訪れた。
 ほんの2ヶ月前に親元を離れて神殿にやってきた巫女は、短い体験を終えて帰る事になった。

 幼い巫女:「短い間でしたけど、お世話になりました。
       ユニコーンさんの事、皆さん、お願いしますね。
       祭事用の装束(シルキー仕様)が縫い上がりましたら…送りますね」

 リンやレンヌが思っていたよりも、ずっと寂しい感じの無い別れだった。
 翌朝、幼い巫女は田舎へと帰っていく。
 リンとレンヌも神殿を離れた。 
 
 リン:「あの子は巫女よりも仕立て屋に向いているから、ユニコーンさんは声をかけなくなったのかもしれませんね」
 レンヌ:「そうですね…」
 
 ユニコーンの真意は2人には分からない。
 ただ、神殿を離れた幼い巫女の未来は決して暗いものではないと、2人は思った。

 (完)

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(ライター通信もどき)

初めまして、今回はお買い上げ頂き、ありがとうございました。
男子禁制の神殿を訪れる異界の少女達!
その行方に一体何が!
…多分、変わった事はあんまり無いのかなと思いました。
普通に神殿を観光するような感じで書けば良いのかと思ったのですが、いかがでしたでしょうか?
また、気が向いたら宜しくお願い致します。

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