レンヌ・トーブ(3502-MT6NPC)PCクエストノベル(4人)[文章:笠城夢斗]


4人がいいから ―ハルフ村―

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1499 / リン・ラセル / 学生兼トーブ家ファクトリーのアルバイター】
【1552 / パフティ・リーフ / メカニック兼ボディガード】
【2936 / エイーシャ・トーブ / エマーン人の交易船(ハウス)の船長】
【3502 / レンヌ・トーブ / 「トーブ家ファクトリー」の主任代行】
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 その日は蒸し暑い、あまり外には出たくない陽気だった。

エイーシャ:「ん〜〜〜〜〜っ!」

 エマーン人の交易船船長、エイーシャ・トーブは窓を開けて日光を浴びると、思い切り伸びをした。

エイーシャ:「こんな暑さだから、行き甲斐があるのよね」

 エイーシャの後ろに3人の女性がいる。エイーシャの言葉に、「はい!」と元気よく返事をした少女たちが2人。
 リン・ラセルは、

リン:「えへへっ。楽しみですね!」

 と嬉しそうに微笑み、最年少のレンヌ・トーブは、

レンヌ:「暑さの中だからきっと気持ちいいですね……!」

 リンと顔を見合わせて、うふふと笑う。

エイーシャ:「そうそう暑いからこそ……パフティ?」

 エイーシャは振り返り、唯一ため息をついている少女を見やった。
 パフティ・リーフ。この交易船のメカニック兼、エイーシャのボディガードとしてよくでかけるパフティは、船長のきらきらとした視線に気づき、再び嘆息する。

エイーシャ:「パフティ。何が気に入らないの?」
パフティ:「気に入らないのではなくてですね……」

 パフティは不安げにメンバーを見渡し、腕を組んで目を閉じた。

パフティ:「何と言うか……絶対、平和では終わらないような気がしてですね……」
エイーシャ:「あら、何言ってるのよ」
リン:「きっと、何も起こりませんよ?」
レンヌ:「大丈夫ですよ、だって」

 最年少のレンヌは、力一杯両手を広げて、にっこりと笑った。

レンヌ:「4人でハルフ村へ、温泉に入りに行くだけじゃないですか!」

 その能天気に聞こえなくもない声に――パフティは再び、深く嘆息した。

     +++ ++ +++

 ハルフ村。ある日突然温泉が噴き出して以来、有名な観光名所となった村のひとつだ。エイザードから骨休めに来る者も多く、村は急速に発展しているという。
 岩風呂、檜風呂、泡風呂、美人の湯――それは多種多様な温泉が揃っているらしい。

レンヌ:「やっぱりやっぱり、美人の湯ですよね!」

 エイーシャにまとわりついてそう言うのはレンヌ。

リン:「温泉以外にも色々なお風呂があるって聞いてます。ジェット風呂とか入りたいです……!」

 リンが同じくエイーシャにはしゃいだ声で訴えている。
 4人はハルフ村に足を踏み入れるところだった。
 硫黄の匂いがもわもわと襲ってくる。

エイーシャ:「温泉の匂いだわ」

 楽しそうに、おそらく4人の中で一番はしゃいでいるエイーシャがわくわくとつぶやく。

エイーシャ:「じゃ、皆競争よ! 温泉に誰が一番早くつくか!」

 そんなことを言い出し、レンヌとリンがわーいと走り出そうとする。

パフティ:「ちょ、ちょっと待ってください!」
エイーシャ:「あら、パフティも競争よ。早くつかないとこのタダ券あげないわよ〜」
パフティ:「あのですね、それよりも先に宿を決めてください!」
エイーシャ:「………」

 エイーシャはしばらく考えてから、
 てへっと頭に手をやった。

エイーシャ:「忘れてたわ」
パフティ:「………」

 パフティは頭痛がしてくるのを感じた。

 結局、『その宿からならどこの温泉へもいける』という宿に何とか入り込む。この暑い季節。人が多い。

リン:「レンヌさんの貞操を護らないと、です!」

 男性客も当然多いことを目にして、リンが真剣な顔でつぶやく。

エイーシャ:「え、て、貞操……!?」

 エイーシャがかあっと顔を赤くする。彼女は38歳ながらにして、なかなか外見は若い。
 エマーン人は17歳までに結婚するのが定例だが、エイーシャだけは奥手すぎて婚期を逃してしまった。そしてこの歳になっても、恥ずかしがるのである。
 リンとパフティはすでに子供がいるので、貞操を護らなければならないのは目下15歳のレンヌだけだった。

パフティ:「温泉なのですから。ほとんどが混浴ですよ」

 パフティが冷静に言いながら、宿で渡された温泉マップを広げた。
 本当にあちこちが温泉だ。村中が蒸せている。
 この村では、女性も男性も、タオルを巻いただけの裸でいることが厭われていない。

パフティ:「まあ順当に……一番近い普通の温泉から行きましょうか」

 とパフティは言った。

 4人で裸になり、宿に用意されていた大き目のタオルで体を包むと、まずは普通の温泉へと向かう。

パフティ:「滑らないように気をつけてくださいね!」

 というパフティの声もどこ吹く風。残りの3人は軽く外でお湯を浴びた後、どぼんと温泉に飛び込んだ。

パフティ:「他の人に迷惑ですよ……!」
エイーシャ:「もう、パフティも肩の力ぬいてっ。さ、入りましょ」

 エイーシャがきらきらした目でパフティを見る。パフティは諦めて、そっと温泉に足を伸ばした。

エイーシャ:「うふふっ。気持ちいい……」

 エイーシャは顔半分まで浸かってしまうほど沈んで、遊んでいる。
 レンヌとリンはお湯をかけあいっこしていた。

パフティ:「だから他のお客さんのご迷惑だから……」

 パフティはため息をついて少女2人を抑える。
 レンヌはくはーっと両腕を開いた。

レンヌ:「こんなにお休み感覚になれるなんて夢見たいです……」
パフティ:「………」

 パフティは黙って、レンヌの肩に触れる。そしてそこが思った通り硬いことを感じ、優しい声で囁いた。

パフティ:「温泉めぐりが終わるころには……きっと疲れは取れるから」
レンヌ:「………」

 レンヌはトーブ家ファクトリーの主任代行だ。しかし――好きでそうなったわけじゃない。
 父親が毒殺された。ゆえの代行。
 レンヌは15歳。エマーン人は精神年齢が高いとは言え、楽なことではなかった。
 レンヌはうつむいた。パフティは優しくその顔をあげさせ、両手で頬を包んでやった。

パフティ:「楽しんで行きましょう。ね?」
レンヌ:「はい!」

 少女の笑顔ははつらつとしていた。
 レンヌは再びリンとまるで泳ぐようにふわーと遠くへ行ってしまう。
 パフティはふと、お湯の中で手をつながれたことに気づいて振り向いた。
 顔半分だけお湯の上に出したエイーシャが、「よくやったわね」と言いたげに微笑んでいた。
 パフティは赤くなり、こほんと咳払いをして、

パフティ:「船長。調子に乗っていると――息が止まりますよ」
エイーシャ:「え――ごぶごぶごぶごぶ」

 エイーシャはそのまま沈んだ。
 パフティは慌てて引き上げて、温泉の端まで行き、口を下向けると、エイーシャの背中を叩いた。
 エイーシャが飲んだお湯は幸いすぐに出てきた。

エイーシャ:「……はっ。私ったら、何してたのかしら」
パフティ:「……覚えてなくてよかったです……」

 パフティは額に手を当てて、はあとため息をついた。

 その温泉を出たところで軽く体を流した4人は、次に岩盤浴に挑戦した。
 暑くなった岩盤の上にタオルを置き、その上に備え付けの着衣を着て寝転がる。

リン:「はう……。あったかいですね……」
レンヌ:「今にそんなこと言ってられなくなるわよ」

 レンヌはリンにそんなことを言う。リンがぷうと膨れるが、事実――暑さはどんどんと体に染みこんできた。

リン:「あ――暑い……暑い……っ」

 だらだらだら。汗がこれでもかとあふれてくる。

リン:「これがサウナというやつなのですね……っ。ま、負けません……!」
レンヌ:「私もリンには負けないっ」
エイーシャ:「2人共、私たちも混ぜて? えっと……我慢大会?」
パフティ:「……当然私も含まれるのでしょうね……」

 だらだらだらだら。一体汗はどこから出てくる?

パフティ:「ほどほどにしましょう。脱水症状で倒れてしまいます――」
リン:「負けません……!」
レンヌ:「私だって……!」
エイーシャ:「若い子には負けないの!」
パフティ:「………」

 パフティは早々にリタイアして体を起こしたが、こんなところで負けず嫌いさを発揮している残りの3人はなかなか起き上がろうとしない。
 脱水症状になるんじゃないかとパフティがはらはらして見ていると、

リン:「〜〜〜〜っ。も、の、凄く……のどが……渇いて……」
レンヌ:「私……も……」
エイーシャ:「………………」
パフティ:「って3人揃ってですか!」

 パフティは慌てて3人を岩盤の上からどかし、備え付けの飲み物を持ってきて、3人に順繰りに飲ませていった。

エイーシャ:「ごめんなさいね……パフティ」
リン:「ごめんなさい……」
レンヌ:「ご、ごめんなさい」

 パフティは腰に手をあて、

パフティ:「お願いですから私の言うことを聞いてください! いいですか?」

 は〜〜〜い、と何とも頼りない返事が、3人から返って来た。

 しばらくして3人が元気になってから、

エイーシャ:「汗を流さなくちゃね」

 と、4人は泡風呂へやってきた。
 外の普通のお湯で汗を流してから、泡風呂へ入ろうとしたところへ、

おばちゃん1:「私たちが先に入るのよっ!」
おばちゃん2:「ほら急いで急いで」

 おばちゃんたち5人ほどが、先にざぶざぶと泡風呂へ入ってしまった。そして呆気に取られているエイーシャたちを見ると、

おばちゃん2:「入ってくるんじゃないわよ、今は貸切よ」
おばちゃん3:「何よあなたたち異界人? 変な髪の毛ね、どっか行ってちょうだい」
レンヌ:「………!」

 レンヌが思わず大声を上げそうになるのを、パフティが即座に口をふさいでとめた。

パフティ:「駄目……! 騒ぎになります。落ち着いて。これが過ぎたらのんびり4人で泡風呂です」
レンヌ:「………」

 レンヌの体から力が抜けた。
 リンもぶるぶると拳を震わせていたが、彼女は口を結んでいるだけ利口だ。
 エイーシャはきょとんとしているだけだった。ある意味大きな器である。
 おばちゃんたちの狭い泡風呂の中での暴れっぷりは見事だった。泡が全部外へ流れていってしまっている。

パフティ:「………」

 パフティは自分も怒りをこらえるのに必死だった。ごまかすように、4人で近くのそなえつけの水道からのお湯をかぶり続け……

おばちゃん2:「ちょっと、どきなさい!」

 泡風呂から突如出てきたおばちゃんたちは、水道の前に座っていた4人を無理やりどかしてどっかと座ると、体を流し始めた。
 4人はまたもや唖然とした。こんな迷惑な客がいていいものだろうか?
 ――でも、だからといって暴れるわけにはいかない……――
 おばちゃん5人がとっとと出て行くように願っているのに、なかなかこういう輩は消えてくれないもので。
 水道の前で、長話を始めるおばちゃんたちに、とうとうパフティは切れた。
 泡風呂の入り口から出て、外から「えっ!?」と泡風呂の部屋にいる人々に聞こえるように大声を上げ、

パフティ:「み、皆さん! 泡風呂の中から、その、茶羽根の――」
おばちゃん5人:「何ですって!?」

 おばちゃんたちは逃げるように泡風呂部屋から去った。
 パフティがほっとしていると、次にリン、レンヌがどかどかとパフティにぶつかってきた。

パフティ:「ど、どうしたの2人共!?」
レンヌ:「だ、だって」
リン:「アレが――出るのですよね!?」

 2人して泣きそうな顔をしている。
 パフティはよしよしと2人の頭をなで、小さな声で、「今のは嘘よ」と言った。

リン:「え……っ」
パフティ:「あのおばさんたちがあまりにしつこいからね。ちょっと先に出てもらっただけ」
レンヌ:「パフティさん……!」

 ふと泡風呂を見ると、

エイーシャ:「ねえねえ泡風呂ってすごいのね! 泡が次々生まれてくるわ!」

 と茶羽根のアレを気にするでもなく、エイーシャが早速泡風呂に浸かっていた。

リン:「す……すごいです船長。アレが怖くないなんて……」

 おそるおそる近づいて、リンは感嘆の声を上げる。

エイーシャ:「アレ?」
パフティ:「……ゴキブリですよ」

 言葉に出され、リンとレンヌがきゃーと悲鳴を上げる。
 ああ、とエイーシャは笑って、

エイーシャ:「やあね。ゴキブリだってかわいい生物じゃない。何を怖がってるの」
パフティ:「……それで終わらせられるのは船長ぐらいなものですよ」
エイーシャ:「何でもいいから入ってらっしゃい。気持ちいいわよ?」

 あのおばちゃんたちの後、というのが何とも嫌な気分だったが、エイーシャは心地よさそうだった。
 3人は顔を合わせて、やがて苦笑して、

リン&レンヌ「はーい!」
パフティ:「はいはい……」

 狭い泡風呂の中に入って、4人は笑った。

 次に4人は、岩風呂へ向かった。
 岩に囲まれた、露天風呂――
 男性客を見つけ、リンがはっとレンヌの前に立ちふさがる。

男1:「おっ! かわいい女の子発見!」

 いたずらっぽく言う青年が、ぽんっと軽くレンヌの裸の肩を叩いた。
 リンがきっと青年をにらみつけ、

リン:「この方に手を出したらただじゃおきません……!」
男1:「お? なに、いいとこのお嬢さん?」
リン:「なんであっても、この方には――」
男1:「悪かったって。手は出さないよ」

 この青年は、どうやらちょっとちょっかいかけるだけの、それほどいやらしい気持ちを持った青年ではないらしかった。
 それよりも――

男2:「なあなあお姉さん。ここから出たらデートしにいこうぜ、少し歩くと絶景が見えるんだこの村――」
パフティ:「私は夫子持ちです」

 パフティが下心見え見えの男1人を撃沈させていた。
 そして、

男3:「……奥方。夜になったら僕とディナーを楽しみませんか?」
エイーシャ:「え、あの、その、私は」

 妙にナルシストっぽい男にからまれているのはエイーシャで、年齢のせいか既婚者に間違われ、パフティの回し蹴りで撃沈した。
 ようやく岩風呂に浸かり、人心地ついたところで再びやってくる厄介者――

男4:「おい、姉ちゃん。さっき見てたけどよ」

 とパフティに近寄ってきて、

男4:「なかなか強いじゃねえか? 風呂から出たら一戦交えねえか?」
パフティ:「ここは温泉ですよ……どうして戦わなくてはならないんですか」
男4:「どこであろうとも、強そうなやつを見つけたら戦いを挑む! それが俺のポリシーでねぇ」
パフティ:「迷惑です」
男4:「まあまあ、そう言うなって――」

 男がさらにパフティに迫ろうとした、その瞬間――

リン&レンヌ&エイーシャ:「えーい!」

 3人による、桶に入ったお湯がまとめてパフティに迫っていた男に降りかかり――

リン:「パフティさんにも近づかせません!」
レンヌ:「私たちの楽しい温泉旅行を邪魔しないで下さい!」
エイーシャ:「パフティは私の部下よ、簡単に近づかせないからっ」

 3人がパフティと男の前に立ちふさがった。
 男がぶるぶるっと顔を振る。顔を真っ赤にしていた。

男4:「てんめぇら――」

 と、

リン:「きゃっ、船長! タオルタオル――!」
エイーシャ:「……え……」

 エイーシャが体に巻いていたタオルが……流されてどこかへ消えていた。

エイーシャ:「きゃ……ああああ!」

 パニックに入ったエイーシャのために、パフティは素早く風呂からあがって備え付けのタオルを取ってくると、エイーシャに投げてよこした。
 慌ててタオルを体に巻くまで、かなりの時間。
 男は鼻の下を伸ばしてエイーシャの裸体を見ていた。

男4:「な、なんだ。歳いってると思ったらけっこういい体してるじゃねえか」

 へらへらし始めた男に、リンとレンヌの桶、さらにパフティのアッパーがくわわり――
 気絶した男を風呂からあげると、

パフティ:「さ、楽しいお風呂を再会しましょう」

 パフティは何事もなかったかのように、3人に言ったのだった。

 この温泉村の檜風呂には2種類あった。複数人が入れるものと、1人ずつじっくり入れるものとだ。

パフティ:「私は1人の方に入りたいです、船長」
エイーシャ:「あら。皆で楽しくわいわいしたかったのに……」

 残念そうに言うエイーシャに、パフティは申し訳なさそうな笑みを見せ、それからすいていた檜風呂にじっくりと浸かった。

パフティ:「……はあ」

 いい気持ち――心からそう思える。ただ温泉に来ただけだというのに、今までだけでもいくつ騒ぎがあったか――
 と――
 1人用檜風呂とは違う部屋にある、複数人数用檜風呂から、レンヌのけたたましい笑い声が聞こえてきた。

パフティ:「………!?」

 パフティはすぐさま檜風呂から出ると、複数人数用檜風呂へ向かった。
 部屋をのぞいてみると――

レンヌ:「きゃはははははは!」
リン:「レンヌさんって、お酒に弱かったんですね〜」
エイーシャ:「んん。まだ子供ね」
おじいさん:「もっとどうじゃね」
エイーシャ:「あ、頂きますね。美味しいお酒――」

 パフティは檜風呂に駆け寄って、桶でぱこんぱこんぱこんとお酒を飲んだらしい3人の頭を殴った。

パフティ:「私のいないところで飲んで……っ! 万が一のことがあったらどうするんですか……!」
エイーシャ:「嫌ねえパフティ。保護者は私よ?」

 完全に被保護者である自覚のないエイーシャが、年長者としてえっへんと胸を張る。
 レンヌは完全にひらほらり〜状態だ。

レンヌ:「あ〜……パフティさんら〜……にゃははは、お酒って美味しいれすれ〜」
パフティ:「レンヌ……! 早めにお風呂から上がって! その状態のままお風呂に入ってたら何が起こるか――」
おじいさん:「こら嬢ちゃん。面白くないことをいうでないわ。こういう状態で風呂に浸かるのが楽しいというものじゃ……」

 真っ赤な顔をしたおじいさんは、悦に入った様子でゆらり〜と風呂に浸かっている。
 リンもエイーシャも、おそらくお酒が入っているのだろう。レンヌをどうこうしようとはしていない。むしろぱちぱち手を叩いている。

リン:「レンヌさんかわいい〜」
レンヌ:「かわいい……ら? きゃはは、かわいいらかわいいら」

 レンヌはじゃぼんと自分から風呂に身を沈めた。パフティが息が止まりそうな気分で見つめると、やがて自分からぷはっとあがってきて、

レンヌ:「やははは〜。息が続からかった〜」
パフティ:「もうだめ!」

 パフティは顔を真っ赤にしてレンヌを風呂から引きずりだした。

パフティ:「船長もリンさんも! いい加減にしてください!」
エイーシャ:「……パフティ、怒ると怖い……」

 そしてお酒を飲んでいた3人は、檜風呂の横で正座させられ、パフティにえんえんと説教されるはめになったのだった。

 そこでお昼になった。

パフティ:「一度宿に戻りましょう」

 時間を見たパフティが提案する。「確かお昼ご飯も出るはず……」
 レンヌのお酒が抜ける時間のためにも、と言うと、説教されて疲れたらしい3人はこくりとうなずいた。
 パフティは少し「やりすぎたかな」と思ったが、どうせご飯を前にすれば3人とも元気になるだろうと、こっそり肩をすくめた。
 そして――パフティの予想にはずれはなく。

リン:「美味しそうです〜〜〜〜!」

 並べられた豪華なお昼ご飯に、リンが頬を両手で包んで嬉しそうな顔をした。
 豪華と言ってもお弁当だ。そこはやはりお昼ご飯。しかし。

レンヌ:「鮎だあ。川魚料理ですねっ」
エイーシャ:「この季節だものね」
パフティ:「ここはありがたく頂きましょう」

 お風呂続きではおなかが減る。4人は若い女性とは思えないほどの勢いでもりもりと食べた。
 結果、男性でも食べるのがきつそうなお弁当はからっと綺麗に片付けられた。

エイーシャ:「〜〜〜〜おかわりっ!」

 エイーシャの言葉に、パフティが顔を赤くしたとか何とか……。
 お弁当を食べてすぐに、温泉に行ったりはしなかった。

パフティ:「食べてすぐはよくありません。1時間くらい経ってから行くと、消費もいいんですよ」

 とパフティが豆知識を披露したので、全員言うことを聞いたのだ。
 と――ふと給仕のお姉さんが顔を出し、

給仕:「あのう……外で人がお待ちです」
パフティ:「? 誰かもっとお友達でも呼んだのですか? 船長」
エイーシャ:「いいえ? 4人のはずよ」
給仕:「あの。男の方が数人です……」

 パフティはきっとまなざしを鋭くした。

パフティ:「ここから見えますか?」

 と部屋の窓を示すと、給仕のお姉さんはうなずく。
 パフティは窓をそっと開いた。そして下を見て、舌打ちをした。

パフティ:「岩風呂でノックアウトさせた男が、仲間連れてきたんだわ」
リン:「え……」
エイーシャ:「パフティ!」
パフティ:「軽く行ってきます。大丈夫です、大した敵じゃありません」

 パフティが念のため持ってきていたライトサーベルを手に部屋を出ようとすると、

レンヌ:「あのっ! 私も行きます!」

 とレンヌが言った。
 パフティが困った顔で振り返る。レンヌは胸の前で両拳を作り、

レンヌ:「だって今浴衣ですよ。いくらパフティさんでも戦いづらいです! 私も力あります、大丈夫です!」
パフティ:「……危なくなったらすぐ宿の中に逃げ込みなさいな?」
レンヌ:「はい!」
エイーシャ:「2人共! 気をつけて……」

 エイーシャとリンの心配そうな視線を背中に受けながら、パフティとレンヌは座敷を出て、階段を下りていく。給仕が慌てて、

給仕:「あの、できれば事を荒立たせずに……」
パフティ:「……それはできれば、男たちの方に言ってくださらないかしら」

 パフティは顔を向けずにそう言った。

 がらがら、と旅館の古めかしい横開けの入り口を開けると、

男4:「よう。来たか」

 4人で潰した男が立っていた。冷静を装っているが、顔が真っ赤になっている。
 パフティはさっと視線を走らせる。隠れているような人間はいない。目の前に見えている、計5人だけ。
 レンヌがパフティの陰でう〜とうなっている。

レンヌ:「さ、さっきのはっ。自業自得です!」
パフティ:「余計なことは言わない方がいいわ」

 パフティはレンヌを抑えると、

パフティ:「さ、何の用かしら?」
男4:「てめえ、武器持ってきてるくせに何言ってやがんだ?」
パフティ:「あら、これが武器に見える? 怖い?」
男4:「……きさまは……っ!」

 男が後ろにいた仲間を促した。一斉に、5人が襲いかかってきた。
 パフティは1人目の懐に入り、肘でみぞおちを一撃、撃破。2人目を膝の後ろへの回し蹴りで撃破。
 そうしてる間にレンヌがその怪力で男の1人を投げ飛ばし、2人目に襲われ「きゃ……」と防御体勢に入っているところに、パフティのビームサーベルがうなった。
 パフティはサーベルで男たちにほどほどの傷をつけると、

パフティ:「さあ! これ以上怪我をしたくなかったらさっさと退きなさい!」

 凛々しい声で言い放つ。
 顔に薄く傷をつけられた主犯の男はくっと唾を吐いて、

男4:「覚えてやがれ!」

 他の4人と共に、あっという間に逃げ去った。
 レンヌがほうと息をつく。

レンヌ:「……やっぱり、パフティさん1人でも楽勝でしたね」
パフティ:「そんなこともないわよ……相手の注意が分散してるっていうのは、ありがたいことだしね」

 汗かいちゃったわ、とパフティは苦笑した。

パフティ:「そろそろ1時間。――皆が行きたがってる例の温泉に行きましょうか」

 レンヌは目を輝かせた。

レンヌ:「はい!」

     ++ +++ ++

 4人が鼻歌を歌いながらやってきた。
 そこは『美人の湯』――

リン:「わあ……! 綺麗なお湯です……!」

 温泉の傍に膝をついて、お湯をすくってみたリンが感激の声をあげる。
 お昼時を少しはずしたからだろうか。人気がない。貸切にできそうだった。
 4人は近くの水道から出るお湯でまず自分の体を洗ってから、揃って『美人の湯』に入った。

レンヌ:「わあ……船長もパフティさんも、肌綺麗……」
パフティ:「レンヌさんが一番肌が綺麗でしょ」

 パフティな何気なくレンヌの肩に触れて、撫でるようなしぐさをする。「私はそんなに綺麗じゃないですよう」とレンヌがいやいやをするが、

パフティ:「(肩こりが治ってる……よかった)」

 パフティは何も言わずに微笑んだ。

エイーシャ:「レンヌの髪も綺麗になったりするのかしら?」

 エイーシャが、レンヌの豊かな黒髪を見て素朴な疑問を口にする。
 リンが笑って、

リン:「体の中から綺麗になるんですから、きっと髪も綺麗におなりですよ」
レンヌ:「ああん、だから、皆の方が綺麗だってばあ……」

 お互いにお互いの肌を触りあいながら、くすぐったがりながら、彼女たちは時を過ごした。
 美しい4人には、美人の湯など必要なかったかもしれない。
 否。それでもやっぱり、ますます美しくなるべきだったかもしれない。
 ソーンで交易船を続けるのは骨だ。色々と神経から来る体の疲れも多い。
 こんな時こそ、それをすべて洗い流すべきで。

 レンヌは自分の肩にかかった重圧を。
 リンはその繊細な性格から来る重圧を。
 パフティは日ごろの気苦労からくる重圧を。
 エイーシャは……

エイーシャ:「うふふ。皆が綺麗になれば、私は幸せよ」

 彼女がそう言った時、パフティは初めてエイーシャが温泉に行くと言い出した理由を知った。
 エイーシャはエイーシャなりに……気を遣って。
 パフティは微笑んで、温泉に深く沈んだ。
 このまま仲良く過ごせればいい。どんな嫌な事態になっても、4人で切り抜けられればいい。
 エイーシャの笑顔の横顔が見える。
 そう、彼女が笑顔ならきっとこのまま、このまま――……


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ライター通信
お久しぶりです、こんにちは。笠城夢斗です。
納品が遅れて申し訳ありません!せっかくの4人での楽しい温泉旅行を書かせて頂けることになったのに……
内容は、ひとつの温泉でのんびりするかどうか色々な温泉で暴れるかどうか悩んだのですが、後者を選ばせて頂きました。いかがだったでしょうか。
このたびは発注ありがとうございました!
よろしければまたお会いできますよう……


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