ページ最終更新日2007年01月17日

 
DAT(1)
 現在のオーディオ界の話題といえば、昨年秋のオーディオフェアに参考出品されたDAT(デジタル・オーディオ・テープレコーダー)であろう。 手のひらの半分に満たない小さなテープ、CDと肩を並べる優れた特性と音質−という歌い文句もウソではないが、それがどんなもので、どう 生かせるかについての情報は明確ではない。現実の製品化にはまだ曲折があろうが新年に当たり三回に分けてこのDATを取り上げたい。
まず難しいことは抜きにしてDATの構造と仕組みは次の通り。テープはビデオテープと同じように、デッキに装着後自動的にカセットから引き出され、ヘッドを内蔵した直径30ミリのドラムに、その円周の4分の1ほど巻きつけられ、テープ自体は秒速8mmという低速で送られる。
 一方、ドラムは高速回転しテープ面を斜めに横切るトラック(録音帯)としてデジタル信号を記録させる。この構造はビデオデッキと同じで、そのミニ 版と思ってよい。
 ビデオを使っている人なら分かることだが、テープを使う場合、見たい聴きたい所を探すアクセス動作が、CDなどの円盤を使う場合より遅く なる弱点がある。
 今のところDATでは、このアクセス速度を通常カセットの約10倍速くできるようにしている。だが、そのためには曲の間や頭出ししたいような所に、単に無音部をつくるだけでよい通常のカセットと違い、DATではその所に別に特定の記号を事前に記録しなければならない。
 このことを『書き込み』というが、これを機械が自動的にやるのか、使用者が手動でやるのか、またその内容もCD並みに曲番も欲しいとなる と、製品化に当たってこれからの処理がどうなるのか、使用者にとって大きな問題なのである。
DAT(2)
 前回に続きDATのソフト(?)にかかわる問題点を挙げると、その優れた記録再生特性を生かすことがある。筆者もその一人かもしれないが、 単純に先端製品熱烈愛好型の人なら、とにかくそれがわが手によって動いていさえすればご満悦だが、投資額を考えるとそうとばかりはいって いられない。
 DATを使えば子供、孫、ひ孫テープと何回複製しても音質の劣化がないということは、一般に知られていることだ。だからこそ著作権の問題が起きて いるのだが、それはさておき、この能力が完全に生きるのは、記録用の入力がデジタル信号である場合に限られる。
 例えばCDからDATに録(と)るとして、CDプレーヤーのステレオアンプ用出力、つまりアナログ信号からの記録では、一回ごとに少ないとはいえ、それなりに音は劣化していく。もちろん現在のカセットでとったテープのように、テープからの雑音に悩まされることはない。だからアナログ信号で DATに記録する限り、この雑音に悩んでいる人以外にはDATのメリットが生かされるとはいえないのだ。これはDATからDATに移して複製テープ を作る場合も、デジタルで出力する機能がなければ100パーセント生かせない(製品化の際には、これが大きな問題になるであろうと予想される)。
一方、最も普及かつ活用されている放送からの音楽テープ作りも、現在の放送は衛星放送のシステムを除き、デジタル信号の送信局はなく、DAT の真骨頂を生かすには程遠い。
 というわけで、新春早々やや暗い話のようだが、明るい話題もないではない。今言った放送に関する問題で、郵政省が地上放送局によるデジタル放送の実用化について検討中とのことである。これができればDATばんざいだが、それがいつになるかは今のところまったく不明だ。

DAT(3)
 録音再生ともデジタルで行うDATの長所が最も生きるのは、録音の際にデジタル信号を入力として与える場合である。しかしマイクロホンを使った録音は、入力がデジタル信号でなくても、DATの特徴を生かせる分野である。
 それはDATならナマの音が持つ大きなダイナミック・レンジ(音の大小差)を損なわずに記録できるからだ。しかしこの時に問題になるのは録音レベルのとり方。デジタル方式では、ある限界レベル以上の信号を加えて録音すると大雑音か強烈なヒズミが出るか、またはそのための対策として自動的にそこだけ音をとぎらせるような処置がとられると思うからだ。
 つまりこの点では今までのカセット録音のように、録音レベルの0dB(デシベル)目盛りをかなり超える大信号が時々加わっても、結果的に格別異常な音質劣化を起こさないのとはかなり条件が違う。
 デジタル録音機におけるレベルメーターの0dBは、超えてはならない大きさを示す目盛りなのである。だからDATの録音レベルの調節や設定は、こういったことに十分な経験を持つ人でないと容易ではない。
 0dBオーバーを防ぐには、簡単には平均的にごく小さく録音するようにレベルを低く設定すればよいが、そうすると小さな音の録音ができなくなる。 というのはDAT録音で記録できる最小レベルが、0dBレベルの約6万分の1までと決まっているからだ。安全のために低めにレベルを設定し、その結果 最大レベルを0dBの10分の1に抑え、この点では成功しても、この時はその最大レベルの6千分の1の大きさまでしか記録できず、現実的に余韻の乏しい音 として記録されてしまうことになる。
 結論としては、先端技術を使うにはそれなりに高度な人間的技術が必要なのである。

CD編その1
 デジタルという言葉は、あいまいなまま各所で使われる。はっきりしているのは、時計に対する形容のときだけだ。デジタルの日本語は「離散」と いう意味だが、これだけでは内容は全く分からない。内容を現実に即していえば、解体復元の技術となる。
 ここに大きな絵があったとしよう。これを復元するには写真を撮って引き伸ばすのが、従来の方法である。
 しかし、ジグソーパズルのように絵を碁盤目に細かく切り離して(解体)保存し、必要とあらば小さな箱に入れて他の場所に運び(伝送)、小片の裏に書かれた「8列13番」のような“番地”に従って復元する方法もある。
 デジタル技術とは小片化の時点で、もとのものとは異質な電気の世界に取り込むが、概念的には今の例と全く同じだ。オーディオらしく たとえれば、音楽を楽譜に変えるのも一種の解体で、それを演奏して復元するのも人間を媒体としたデジタル手法だが、これだと演奏者の技量 で復元された音楽の忠実度や質が左右される。だが小片化、再組み立てによる再現は、細い切り取り線だけは残るが、それさえ許せば完全にもとに戻る。
 オーディオにおけるデジタルもこれと同じで、細い線にあたる微量のひずみは残るが、撮影による復元のように、現像のような過程の良否によって、再現されたもの(音)の忠実度が損なわれることがない。デジタル・オーディオが優れたものとされるゆえんである。
 フォーマットとは小片にふる“番地“のつけ方の決まりと同じく、デジタル技術を各分野に適用する場合、例えばコンパクト・ディスクや テープへのデジタル録音など、その媒体別に合意された、解体復元にかかわる技術的な条件のことである。
CD編その2
 サンプリングとは標本化、次の周波数は、例えば1日の温度変化を調べるとき、何分おきに温度を測るか、その周期を示したものである。 かりに20分おきに測れば、1日72回になり、1日を基準単位とすれば72サイクル(繰り返し数)である。しかしことが電気の世界になると、基準単位時間が1秒で、名称もヘルツ(Hz)に変わる。
 温度調べに戻り、一定時間おきに測った温度に従って棒グラフをつくれば、これで時間につれて連続的に変化する(アナログ変化)1日の温度を、72周期ごとにデジタル化の第一歩として、サンプリングしたといってよい。
 コンパクト・ディスクにおけるデジタル化は、アナログ音楽信号を1秒間に44100回測り、音楽の標本を作る。これがカタログなどに標本化 周波数44.1kHzある理由だ。この周波数はCD関係すべて共通だが、テープに対するデジタル録音では違う周波数となる。
 使用者としては標本化周波数の約2.2分の1の周波数までが、再生できる最高の周波数と判断すればよい。
 さて1秒に44100回測ることを時間的にいうと、100万分の22秒ごとであり、これで作られた電気の棒グラフ信号は、もとの音楽をマイクで とったアナログ信号と、ほとんど寸分たがわない標本になっている。
 問題は棒グラフの長さ(電圧)を読み取る段階で、人の目なら目盛りの中間でも目見当で読めるが、これはできず、与えられた目盛りの中間値は、四捨五入した電圧として読む。
 電気を使い、この読み方で標本化することが量子化で、四捨五入による誤差は、与えられた目盛りの細かさで決まることも分かる。そこで ビットという言葉が出てくるが、これは次回に。
CD編その3
 ビットは2倍ごとに桁(けた)上がりする2進数の桁、バイナリー・ディジットの略である。コンパクト・ディスク(CD)の分野で、 2進数が使われるのは、音の大小高低になぞらって変化する波形電気信号の10万分の2秒ごとの電圧を読み取るためだ。
 2進数では、一番下位の桁を1の桁とすれば、その上が2、さらに上がその2倍の4,次が8の位の桁となる。 例えば、2進数で11を示すには“1011“と並べれば、それが示す数は8+0+2+1の11にできる。
 この場合桁数が4桁だから、4ビットの11となる。一方4ビットで表せる最大の数は、“1111”でこれは8+4+2+1の15であり、最小は “0000“で4ビットで示せる数の種類は2のビット数乗(24)の16種である。
 この2進数だと、記号が”1“と”0“で足りるため、これに対応して電流有りと無しの順序を変えた連続電気信号を作れば、数字と同じ 働きの数字信号ができる。
 そこでこれを用い、光の明暗が作れるようにレコードに凹凸を作り、再生はそれで作られる反射光の明暗を読み取って数字信号を得れば 10万分の2秒ごとの電圧値すべてが分かる。最後にこれをもとに10万分の2秒ごとに変化する電気信号を作れば、もとの波形信号が復元できる。
 これがCDの仕組みで、記録から復元までの問、波形とは無関係な数字信号に依存するため、波形が変わるひずみは起こしようがない。 また途中で数字信号に雑音が混じっても、あるなしを不明にしない限り、数字の仲間にはなれず、復元された出力には現れようがない。 CDの音にひずみや雑音が極度に小さいのはこのためだ。優れたレコードであるCDにとって、ビットで表される2進数は生みの親なのである。
CD編その4
 レーザー光線の特徴はレンズで焦点をしぼった時、非常に小さな光点が作れることにある。光の種類としては赤外線の仲間で、 人間が見ることができるスレスレの波長を持っている。
 普通の光だと焦点を合わせても、光源の像の形がはっきりするだけで、大きさは像によって決まり、CDで使っている直径2ミクロン (1000分の2mm)にはなり得ない。
 しかしレーザーならこれが可能だが、これは波長の長さ以外に、他の波長を含まないただ一つの 波長の光だからでもある。加えて光源から波動状態で光が放出される時、そのどれをとっても波動のふるまいが、全部そろっていることもある。レーザーは誕生以来、30年に満たないが、人間が作った超自然の光なのだ。
 光点の直径が小さい必要があるのは、CDの中で記録に使われている突起部が、幅0.4μm(ミクロン)相互列間隔1.2μmの渦巻き 列として記録されており、回転中のディスクから、突起部の並び方を読み取るためである。焦点が大きく隣の列にまたがっては、1本の並び方の読み取りはできない。
 さて一般にピットというと、この突起部を指すが、ピットとは本来へこみの意味で、突起部は正しくはバンプという。だがディスク になった時点での突起部は、その原盤を作るとき、へこみとして作られたところであるため、原盤を尊重してピットとなった。
 ピットの長さも次のピットとの間隔も無秩序ではなく、0.9から3.2μmの九種類に決まっている。これらピット平面部表面は、反射性 のよいアルミはくで覆われ、さらに透明なプラスチックで埋め、外部表面は平面にしている。CDのにじ色の輝きは、ピットの分光作用の結果である。
CD編その5
 コンパクト・ディスク(以下CD)プレーヤーは、CDから読み取った音楽信号が、もとの音楽に復元できないほどの読み損じをすると、 その部分の音楽をとぎらせたり、同じ所を繰り返して再生する。
 この読み損じ現象をエラー(誤り)といい、よほどのエラーでないかぎり、プレーヤーが持っている 訂正回路が働き、再生音に異常が出ないようにしている。だがこの訂正能力は、プレーヤーの質によって多少の差はある。カタログで二重とか三重訂正回路とあるのを、「CDについた指紋でエラーを生じ、普通なら音とびを起こしても、本機なら大丈夫」という意味にとれば、親切(?)かつ 正しい解釈だ。だが訂正能力には差と同じように限界もあることを知らなくてはいけない。
 プレーアビリテイというのは、CDプレーヤーの訂正能力を使用者の側から見た場合の言い方である。つまり同じ原因によるエラーでも、音に 異常を出さないで演奏するプレーヤーは、プレーアビリティが良好ということになる。
 しかしCDの場合、エラーの原因がディスクを目で見て分かるほど大きければ、どのプレーヤーでも訂正能力の限界を超えていると考えてよく、本当のプレーアビリテイの比較はだれでも簡単にできることではない。
 演奏中のプレーヤーを手でたたき、音とびを起こすかどうかでプレーアビリテイを試す人がいるが、これはショックに対する抵抗能力が分かる だけで、本当のプレーアビリテイのテストにはならない。その理由はCDについた指紋や汚れ、ゴミに対する本当の訂正動作は、ショックに対するのとは別の機構・回路で行われているからである。
 ショックには弱くとも、エラー読み取りに強いプレーヤーがあるし、たたき過ぎて本当のプレーアビリティを悪化させることもありうる。 注意してほしい。
CD編その6
 サーボとはラテン語から生まれた、制御という意味の言葉である。こう呼ばれる技術はオーディオ機器全般に広く使われている。この内容を具体的にいうと、回転やものの動きのふるまいを電気信号として検出し、これとは別に作った、そのものが正しく動いている時の電気信号と比べて、両者が一致するように、その動きを正すことである。
 CDプレーヤーでは、回転や大切な可動部すべてに、このサーボがかかっているため、カタログ上回転の不安定さを示すワウ・フラッターの項が、計測不能とか水晶精度(水晶時計の精度と同じという意味)と書かれている。
また可動部にかけられたサーボの働きで、離れた所からでもレーザー光線で、CDの中にある、LPレコードでいえば音溝に相当する音楽の痕跡列(トラック)を正確にたどることもできる。こういうときは、目的と一緒にしてトラッキング・サーボという。
 3ビーム法とは、トラッキングが正しく行われているか否かを検出する方法の一つで、CDの読み取りに使われるレーザー光線を、3本のビーム(広がりのない細い光線)に分割し、そのうち2本を両隣のトラックに照射することで、中央のビームが正しく両隣のトラックの真ん中にあるかどうかを調べる。3本に分けるためやや複雑になるが、3本の中央という原理的には単純な方法のため、安定度は高い。
 これに対し構造の簡潔さと、小型化に有利な1ビーム法もある。この方法は、ビームがトラックからズレると、明るさが左右でアンバランスになることを手掛かりとしている。1ビーム法でも回路を高性能化した、安定度のよいものもある。
CD編その7
 CDには音楽を解体したデジタル信号のほか、曲番や時間を表示する情報も入っている。しかも、これ以外にもまだ違う情報を収録する余地がある。今のところ、この余地に何が入れられるかは分からないが、静止画や簡単な文字情報なら記録できる。ただし今売られているCDには、この余地には何も入っていない。
 サブ・コードとは、今述べた現在空き家になってはいるが、将来ここに入れられる信号のことをいう。プレーヤーのなかには、先を見越して、デジタル信号のまま、このサブ・コードを出力する端子を持つものもある。
 カタログなどに、バリアブルとかフィックス出力端子とあるのは、外部から出力の大きさを調整できる端子がバリアブル(可変)で、それができないとフィックス(固定)と表示されているのだ。
   一方、CDプレーヤーすべてが持つ出力、つまりそのままアンプのAUX(補助の略称)と表示された入力端子につなげる出力は、2Vと表示されている製品が多い。これはCDプレーヤーの規格の取り決めが、2Vとなっているからだ。
 しかしこの電圧は、アンプのAUXやチューナー用入力端子の表示標準電圧である0.1〜0.2Vより、かなり大きく感じられよう。だが、この点は心配無用で、CDプレーヤーの2Vという電圧は、これ以上はどんな場合でも出ることのない電圧を示しているのだ。
 音楽を演奏している時に出る平均電圧は、この7分の1程度である。しかし現実的には、これでも他の機器からの入力より、やや大きいため、夜中ひっそりと聴く時は、アンプのボリュームのつまみを、ほとんど0に近くすることになる。
 この点から考えるとCDプレーヤーは、まだそれほど多く出回っていないが、バリアブル型出力端子を持つものの方が使いやすいと思う。
CD編その8
 CDプレーヤーのカタログにはアクセス・タイム、ランダム・アクセスという言葉が多い。アクセスとは基本的に『接近』という意味だが、オーディオ関係では、最初の曲から演奏しないで、途中の曲を選び出す動作をいう。従って、アクセス・タイムとはそれに要する時間のこと。プレーヤーによって若干の差はあっても、とんでもなく遅いものはない。だが、時間を短くする技術は、かなり難しい。
 ランダム・アクセスは、演奏する曲の順序をディスクに入っている順序とは関係なく、任意に選ぶことのできる機能をいう。そのためには記憶機能も必要なため、メモリーという言葉がつく場合もある。ランダム・アクセスには、指定された曲の曲番を若い順に演奏するものと、プログラムといって、順序も指定できるものとがある。
 記憶させることのできる最高曲数は、限度が99で、それ以下はプレーヤーによって異なるが、20曲の記憶ができれば実用上は十分だ。
 演奏曲番を指定するために10キー(テン・キーと読む)を使用する。テン・キーとは本来電卓用語で0から9まで計10個の押しボタンのこと。普及価格のCDプレーヤーにはついていないことが多いが、そのかわりについているボタンを、許された曲数内で曲番と同じ回数だけ押せばいいようになっている。
 またシャッフル・プレイとかランダム・プレイと呼ばれる機能を持つプレーヤーもある。意味は同じで、ディスクに記録された順序に従わず、プレーヤーがまったく勝手に、しかも毎回順序を変更して演奏する機能のことをいう。
 聞きなれたディスクもその曲順を変えて演奏されると、別のディスクかと感じるほど新鮮な気分が味わえるし、次に何が出るかという単純な楽しさもあるのだ。
CD編その9
 CDに入っている曲順の番号をトラック・ナンバー(TNO)と呼ぶ。これはCD独自の呼びかたで、演奏中必ずプレーヤーに表示されていることや、演奏の前にTNOを指定して、その曲をかけることができることもすでにご存じだと思う。
 CDでは最長約70分間の音楽が収録できるが、その時間内であれば最大99曲まで入れてもよいことになっている。
 このトラック・ナンバーと混同しやすいものに、インデックス・ナンバーというのがある。日本語でいえば『索引番号』という意味。これはTNOで表示された個々の曲の中で、さらに「聴きどころ」の楽曲部ごとにふられる番号のことである。
 たとえば、TNO3のインデックス2のところに、ギターのアドリブが入っているといったように使われている。
 しかしこのインデックス・ナンバーは、必ずしもすべてのディスクや曲にふられているわけではない。むしろ現在のところ、ふられているディスクの方がずっと少ない。比較的多いのは、オペラの中で「○○のアリア」などというように、曲としても独立性のある歌唱部にふられているようだ。
 またプレーヤーの方にも、インデックス・ナンバーまで指定演奏できるものはまだ少なく、このインデックスを利用したいと考えている人は、購入に当たって確認しておくことを勧めたい。
 一般的に普及価格のプレーヤーは、ほとんどインデックスまで選択できない。しかし、事実上はTNOごとの曲の通過時間の表示をたよりに、聴きたいところの時間をメモをしておけば、その場所を出すことはできる。
CD編その10
 CDプレーヤーのカタログで、よく使われる専門語として『オーバー・サンプリング』というのがある。
 もともとCDでは、雑音が発生するのを防止するために、約20kHz以上の周波数は録音前に厳しく取り除かれているが、再生時でもプレーヤーに使用しているIC(集積回路)から20kHz以上の成分を持つ雑音が加わると、やはりこの時点で極めて悪質な雑音が発生する。そのため20kHz以上は再生の過程でも厳しく取り除く必要がある。
 このための回路であるローパス(低域通過)・フィルターに必要とされる特性は、20kHzまではその音域を減少させず、なおかつそれ以上は急激に切り取る、ということになる。
 そうしないと、音楽の中にある20kHzあたりの高音も低下してしまうからだ。しかし、このようなフィルターを安定かつ低価格で作るのは難しい。
 オーバー・サンプリング回路とは、以上のように難しい特性のフィルターを使わなくとも、ノイズが出ないようにする手段のことである。
 この回路を用いると録音前に行われるサンプリングが、実際に使われている44.1kHzでなく、その2倍または4倍の周波数で行ったのと同じ信号にすることができる。
 こうすると再生しうる周波数の高い方の限界である20kHzに対して、サンプリング周波数が88.2kHzや176.4kHzと、ずっと離れた周波数になるため、ローパス・フィルターが受け待つ20kHz以上の切り落とし特性は、それほど急激なものでなくともよく、20kHz以下が減少する危険も避けられる。しかし、このデジタル・フィルターと呼ばれるオーバー・サンプリング用ICは、決して安いものではない。
カセット・デッキ編 その1
 ラジオ・カセットのような、いわゆる日常の使用を目的としたものは別として、高忠実度のオーディオ用カセット・デッキに、特殊機能としてあるものに、バイアス・アジャストというのがある。
 このバイアスとは、正しくは録音バイアスまたはテープ・バイアスといい、テープ面上に音楽に対応した磁石を作る磁気録音に必要な、録音信号とは別の電流のことである。このバイアスの助けがないと、テープに磁石を能率よく作ることができず、バイアスなしに作られた磁石は録音したい信号に正しく対応したものにならず、ひずみの大きな録音しかできない。
 以上のような役目を持つバイアスは、磁石を作ることに関係しているため、録音テープに用いられている磁性体材料の質によって最も適切な値が異なる。
 現在、磁性体の種類は適正バイアスの量でおおまかに三種類あるが、この三種類のうちでも厳密にいうとそれぞれ多少の違いはある。そして、それぞれの適正値に対し、大きめにズレた場合を技術用語でオーバー・バイアス、逆だとアンダーという。
 結果的にはオーバー・バイアスで録音された音は、高音が不足気味となり、アンダーなら高音はやや上がり気味となる。
 そこでこのバイアスを使用テープごとに正しく合わせることが、テープを完全に生かすために必要となってくる。これがバイアス・アジヤスト機能である。
 しかし、それほどまで録音の正確さを望むのは、録音したテープを整理保存する本格的オーディオ・ファンのみといってもよい。しかも、テープ個々によるバイアス差も、日を追って小さくなってきていることも事実なのだ。
(適正バイアスによって分けられる三種類のテープについては次回に)
カセット・デッキ編 その2
 カセット・テープには、ノーマル、ハイ・ポジション、メタルと呼ぶ三種類があり、これらの根本的な違いは、録音の高能率化に不可欠のバイアス(録音信号とは別に加える耳に聞こえないほど高く、かつ量も数百倍も大きい電流)が、それぞれで異なることにある。
 そのため録音に先立ち、使用テープに合わせてデッキの方を切り替えないと、自然な音質で録音できない。そのためのものが、テープ・セレクターである。
 しかし、最近のデッキはそれぞれのカセットの背面にある区別用の穴を、装着と同時に自動的に検出し切り替えるものが多く、テープ・セレクターを誤ってセットすることによる録音の失敗が防止できるようになっている。
 また、これらの三種類のテープは録音の時のバイアスだけでなく、再生時に与えられる特性も違っている。この差を具体的にいうと、ハイ・ポジションとメタル・テープの方が、音楽のない所で聞こえるシューッという、テープ・ヒスと呼ばれる雑音がノーマルよりかなり小さいことだ。
 当然このための切り替えも再生時に必要になるが、これも前に述べたように自動化されたオート・テープ・セレクター機能が、便利である。注意が必要なのは、ヘッドホン専用の小型カセット・プレーヤーのなかには、ノーマル・テープしか再生できないものがあることだ。
 ノーマルとハイ・ポジション両テープの使い分けは、クラシックのように、音量の大小差が大きい音楽には、以上に述べた低雑音のメリットを持つハイ・ポジション、またはハイ・バイアスとも呼ばれるテープを使う方が効果的である。
カセット・デッキ編 その3
 中級以上のカセット・デッキの特徴として、3ヘッド型というのがある。このヘッドとは信号電流と、テープの磁気をとりもつ部品で、正式には磁気ヘッドという。
 テープの録音再生動作に必要なヘッドを細分すると、前に録音された音を消す消去用と録音用、再生用の三種類になる。しかし、このうち録音用と再生用は、特に高性能を望まなければ、一個のヘッドを、両方に用いることができる。これが2ヘッド型である。
 最近はデッキの高性能化の要求によって、3ヘッド型が使われるようになった。しかし、カセットの場合、テープの収納ケース(ハーフという)の構造は2ヘッド対応として、作られている。だから、ハーフの構造上、ヘッドの個数は消去を含めて、2個 に抑える方がベターなのだ。
 そのため、現在の3ヘッド型デッキの主流は、通常の1個分のヘッドの大きさの中に、小型の録音、再生各ヘッドをまとめた、コンビネーション・ヘッドと呼ばれるものが使われている。
 3ヘッド方式が持つ利点は、録音された音の質が格段に良くなることと、録音中に簡単なスイッチ操作で、録音された直後の音と録音される前の音とを、聴き比べることができる。テープ・モニター機能が持てることである。
 この機能があれば、市場にある数多くのテープの中から、録音前の音に最もよく似た音に録音できるテープ、つまりそのデッキに最も適合したテープを見つけることも、容易にできる利点がある。
 ヘッドの構造を簡単にいえば、正面にすき間(ギャップ)を持つ鉄芯(しん)にコイルを巻いたものだが、この鉄芯の素材がヘッドの特性にかなり影響し、無結晶合金のアモルファス、リボン(薄膜化)センダストを筆頭に、センダスト(仙台の大学で発見された合金であるため、この名がついた)などが優れている。
カセット・デッキ編 その4
 デッキの機能として、ノイズ・リグクシヨン(雑音低減回路、略称NR)が何種類ついている、ということがカタログによく出ている。結論として現在この回路の種類は、ドルビーのBとC型、dbxの三種類が生き残り、特にドルビーのBは、市販音楽テープにも採用されているため、ヘッドホン・カセット・プレーヤーを除き標準装備といってもよい。
 さて、これらのNR回路で低減できる雑音は、再生の時にテープから出るシューッという雑音のみで、録言信号の中に含まれている雑音には全く効果はない。さらに、これによる低減効果を得るには、例えばドルビーBを使うなら、録音の時にそのスイッチを押した状態で録音し(エンコードという)、それを再生する時にも忘れずにそのスイッチをオンにする(デコードという)ことで行われる。
 再生時のデコードを忘れると、ドルビーBとCの順に、かなり高音が強まり、dbxは不自然に音が波打つ。逆に、エンコードしていないテープにドルビーのBをかけて再生すると、高音不足の音になり、Cの場合はそれがさらにひどくなり、加えて音が不自然に波打ち、何か故障したような音になるから注意が必要だ。dbxだと、この時の波打ちはさらに大きい。
 このようにNR回路の活用は、必ず録音、再生両方とも同じ種類のNR回路のスイッチをオンにして行うのが前提で、たとえ同じドルビーのBとCとでも互換性がない。しかし、以上のことを間違えずに使えば、その効力は著しく、特にドルビーCとdbxではテープからの雑音は全く音になって出てこない。
 また、理由は技術的すぎるので省略するが、NR回路を使うことを前提とするなら、価格的にも手ごろなノーマル・テープの方が有利であることも知っておいて損はない。
カセット・デッキ編 その5
 LPレコードは回転、テープはそれを走らせることで音 を再現する。このような仕掛けによる音の再生は、回転や走行速度が録音した時と変わると、そのズレに応じて音程が上下に変化し、もとの正しい音程での再生ができない。ここで問題になるのは、再生中の速度が周期的に変化する症状で、この変化の度合いを示すのが、ワウ・フラッターという特性だ。この表示は正しい速度に対する変化の量を、パーセントで示し、「ワウ・フラッター、0.1%」というようにカタログに書かれる。
 速度が1秒間に4.75p(公称はJISの決まりにより、数値を丸めて4.8p/秒と表示)のカセットで0.1%なら、走行中に起きる速度変動は4.75pを中心に、その0.1%つまり約0.048mm以内に収まっているということである。
 この場合、同じ0.1%のズレでも、これが走行中に全く変動しなければ、単なる速度偏差であり、そのぶん音程は全体に変化するが、時間でいうと30分のテープが1.8秒長く、あるいは短く再生されるだけで、これによる音の上の異常は、まず判別できない。
 しかしこの程度の変動でも、走行中にこきざみに発生すると、音程の変化としてでなく、音の濁りとして、または音の余韻がふらついて消えるという症状になり、耳で聴いても分かるほど音質が悪化してくる。
 カセット・デッキとラジオ・カセットの基本的な品質差で一番大きいのは、このワウ・フラッターの量で、一般にいう「澄んだ音」を本当に望むなら、ラジ・カセに頼るのは率直にいって無理なのだ。
 しかし同じように回転によって音を再生するコンパクト・ディスクでは、回転の中にこのワウ・フラッターがあっても、電気回路で正確にそれを正せるため、以上のような症状は全く現れない。デジタル方式最大の長所である。
カセット・デッキ編 その6
 録音レベルを示すメーターの目盛りには、dB記号が使われている。正しい読み方はデシベルで、デイービーとも読む。これは、視聴覚にかかわる電気の分野独特の量の比較に使われる表示法である。dは10進、10倍の意味を持つデシマルの略で、Bはこの表示法を世に出した電話の発明者グラハム・ベルの頭文字。
 ベルが考えた量の比べ方は、1が2になったとき、2引く1の1が増えたと考えず、2倍になったとする見方に基づいている。増加分を同じ1にして、1から4まで順次並べると、1,2,3,4となる。しかしこの変わり方を倍率で比べると、1から2は2倍、2から3は1.5倍、3から4は約1.3倍で、各量の増加率は違う。
 一方、量の変化が同じと人間が感じるには、変わり方の倍率が同じでなくてはならないという生理がある。前例でいうと、1から2への2倍の変化の方が、1.3倍しか変わっていない3から4への変わり方よりも必ず大きく人間は感じるのだ。
 そこでベルは、音に関係する電気の量の比較は倍率でとらえる方が合理的だと考えた。等倍率ごとの数値を、目盛り用としては1,2,3のように分かりやすい等差数値列で示せる『対数(log =ログ)』を用いた量の比較と表示法を提案。これがdBの起こりである。
 しかし実用上、常用対数(log 10 )で数量を示すと、10万の量も105の5になり、非常に小さくなるため単純にこれを10倍(デシマル)して使うことになった。
 メーター上の基準0dBは、音が汚くならない限界の信号の大きさとなっており、0dBとは100で1となる。1以下の倍率に対しては、単に−(マイナス)符号をつければよいこともdB表示の便利さである。
 このようにデシベルとは、体で感じている等倍の変化を、等差の数字で表す表示法なのである。
カセット・デッキ編 その7
 デジタルという言葉が定着してから少し影が薄くなったとはいえ、PCMという録音法がある。これはパルス・コード・モジュレーシヨンの略で、デジタル方式の一族だが、ずっと古くからある。しかもこの方式のテープ録音機を、その初期において実用化に向けて強力に進めたのは、NHKとデンオン(日本コロムビアのハード系技術部門)の協力で、いわば日本が先鞭(べん)をつけた技術である。
 PCMは内容的にはコンパクトディスクの記録に使われているデジタル方式と同じだが、ただコンパクトディスクのように凹凸をもって記録せず、磁気の変化、例えばSとNの変化としてテープに記録する点が違うだけである。
 開発以来、実用されたのは専らLPレコードのもととして使うマスターテープの録音システムとしてで、現在LPレコードにデジタルマスター使用とただし書きがあるのは、すべてPCMのマスターから作られたレコードである。これは、俗にデジアナレコードなどとも呼ばれている。
 一方、家庭でPCM録音をするには、ビデオデッキとPCMプロセッサーという一種のアンプを別に用意しなくてはならず、まだまだ普及しているとはいえない。しかし、メーカー側では低雑音、高忠実度特性を持つPCM録音の優れた家庭用録音機を開発すべく頑張っており、これがデジタルオーディオテープ、略称DATである。
 今のところDATといっても二種類が考えられている。ひとつはR型と呼び、ヘッドが回転するビデオデッキと同じロータリーヘッド方式。もうひとつは、現在のカセットのようにヘッドを固定した(ステーシヨナルヘッド)S型。
 それぞれ特性が優れているとしても、それが普及に結びつくかどうか。年内には発表されそうな気配が濃厚だ。
カセット・デッキ編 その8
 テープ関係のカタカナ言葉は、その一般的意味と違う意味で使われているものが多い。例えば、だれでも知っているカセットは、本来、宝石箱のことで、これはカセット・を開発したフィリップス社がつけた固有名である。それまではケースに封入した状態で使われるテープは、すべてマガジン・テープと呼ばれていた。
 テープを収納しているケースをハーフというが、このもとはテープにとって、ケースが不離一体のベターハーフ(配偶者)の関係にあることから転用、定書した名称で、実は上手な洒落(しゃれ)言葉なのである。
 また呼び名がいったん定書したあと、違った意味合いを持つ言葉もあり、カセット・デッキもそのひとつ。本来、デッキは船の甲板のことである。テープの分野では、ラジオ・カセットのようにスピーカーやアンプを内蔵していない製品を指す。と同時に、品質的に段違いに良いという意味が、かなり込められているようである。
 しかし、こういう隠れた意味は国内だけで、英語圏ではほとんど通じない。
 録音関係では、字引を引いてもピンとこない、専門的カタカナ言葉があり、ソースもそのひとつである。本来は漢字の「源」が持つ意味と同じだが、それから転じて録音しようとする、あるいは録音された音が何から得たかの種類をいう。例えば「このソースはFMだよ」といえば、FM放送から録音したテープということなのである。
 同じくモニターとは、音を検査するために聴くことだが、テープ・モニターとなると、録音しながらそのテープからの再生音を聴くことで、同じ録音中でも、録音する前の音を聴くことはモニターとはいわない。結果的にモニター可能なデッキは、ヘッドの項で述べた3ヘッド型のみということになる。
 カセット・デッキ編はこの項で終わり。次回からはチューナー編です。
チューナー編 その1
 FM放送のFMとは周波数変調(フリクエンシー・モジュレーシヨン)の略で、送りたい音信号を電波に乗せるやり方が、AM放送と違い、また電波の周波数もAMより百倍くらい高く、テレビの電波に近い。
 だからFMの受信は、テレビの場合と同じに考えてよ > く、無理な遠距離局の受信はテレビの画質が劣化するのと同じで、FMでは雑音が増加し、音質もひどく悪くなる。
 そのためアンテナを立て、十分な電波をFMチューナー(同調器)やラジオに与えないと、結果的に遠距離受信と同じ状態で働いていることになり、良い音は得られない。これも室内アンテナを使っているテレビの画質が、一見して分かるほど良くないのと同じである。
 FM放送が聞けるということからいえば、ラジオ・カセットもチューナーも同じ仲間に違いないが、受信後の音質では大変な違いだ。この違いは使い古しの貸しレコードと、新品のレコードを高級プレーヤーでかけたときの音質の差以上である。
 一方、両者とも放送を聞くという目的では同じであるため、とかくより高価なチューナーの方が 感度が高く 、弱い局でも聞けると思いがちだ。だが、これは間違いで、聞けるかどうかの能力だけなら、ラジ・カセもチューナーも実はたいして違わない。むしろこの点がFM受信の特徴で、 FM受信における感度 とは、雑音や音の濁りがないと同じになる電波の入力レベルの大小が、どの程度でよいかの差と思う方が正しい。
 しかし高級品でも、この差はせいぜい普及品の半分程度で、電波がそれ以下になれば両者とも雑音だけが急に増え、音が雑音で埋まり、聞くに堪えなくなることは同じなのである。また、このように貧弱なアンテナによる入力不足で起こる音質の悪化は、それ以後に続くアンプやスピーカーがいかに良くとも救えない。以上が、まずFMに関して知っておいてほしいことである。
チューナー編 その2
 FM受信におけるアンテナの重要性は、前回述べたとおりだが、アンテナという言葉はアメリカ生まれの言葉で、イギリスの古典的紳士は空中線の意味のエアリアル(aerial)と言うし、相手によってはアンテナでは通じないこともある。
 それはさておき、電波の周波数がFMのように高くなる と、電波はサーチライトのような直進性を持ち、周囲に広がりにくい性質が出てくる。この性質はテレビ電波も同じで、ご近所一帯のテレビ・アンテナの向きが、言い合わせたように同じ方向を向いているのも、このせいだ。
 一方、アンテナも指向性といって、一方のみに限り電波を捕らえる能力を持つ。これはラジオ・カセットについているロッド(棒状)アンテナも同じで、方向をわずか変えても捕らえる電波の強さは、大きく変わり、それにより音質も大きく変わる。
 FMチューナーには、ロッド・アンテナのようなFM用のアンテナは備えておらず、背面のアンテナ用端子にアンテナをつながないと、全く受信できない。チューナーには、そのためにリボン・アンテナというT字型のひも状のアンテナが付属しているが、このリボン・アンテナで音質の良さを味わえるのは、室内アンテナだけでテレビが十分きれいに受像できる場所に限られる。別の言い方をするならば、テレビに屋外アンテナがいる場所なら、FMも屋外アンテナが必要だと思えばよい。
 屋外アンテナがつなげないラジオ・カセットで聴くFM放送の音は、本来の音の良さとは比べものにならない。FM用屋外アンテナは、テレビのそれと形が似ているし、いくら電波の性質が似ているからといって、両者の周波数が違うため代用できず、それぞれにアンテナが必要であることは言うまでもない。またどの程度のFMアンテナが、その受信地で必要かは、その地区の電気店が知っているから、よく相談するといい。
チューナー編 その3
 ステレオ放送しているときの電波が送ってくるのは、各独立したステレオの左右の信号ではなく、左と右をそのまま加え合わせた「和信号」と、交流である左右信号の片方のプラスマイナスの変化を逆にしてから加えた「差信号」の両方を送ってきているのだ。
 このうちモノラルのFMラジオで聞けるのは「和信号」だけで、これにより左右どちらか片一方だけの音を聞くということがなくなる。
 このようにステレオでない機器でステレオを再生しても不都合なく行えることを、広く共用性(コンパテイビリティ)といい、新しい技術の方式を決める場合に非常に大切なことである。
 さてこの「和信号」は、本来音になってから空間で混じり合うべき左右の音を、電気信号の状態で混合したと思えばいい。一方、「差信号」はステレオ独特の音の広がりや豊かな立体感を作っている要素で、ここでいう「差」とは、引き算の差ではなく、その内容は左右の音の違い分に当たり、ステレオにとって大切な音である。
 ステレオ用のチューナーやラジオは、この和である左+=プラス=右と、差の左+=プラス=(−=マイナス=右)、カッコをとると左−右の信号から、左と右だけの信号を取り出すデコーダー回路を持っている。そのやり方はいろいろだが一例を挙げると、左+右の和信号に、+左−右の差信号のプラス、マイナスを逆にし、−左+右として和信号に加えると、左は+と−で消え、右だけ二倍となって残る。(ここで注意しておきたいのは、−は引くということではなく、電気の世界では位相を変えるということでプラスマイナスの変化を逆転させることなのである。だからこの場合の−左+右というのは、右そのものがすでに−右ということである)
 また差信号をそのまま和信号に加えれば左+右+左−右で、右の信号が消え、このふたつの操作で左だけと右だけの信号にできる。
 このように電気の信号を足し引き算で処理する手段を マトリックス (演算手法)と呼び、和差信号とともに、FM受信に限らずステレオ関係の機器やステレオ効果に関して、よく使われる専門用語である。チューナー関係ではないが、最近注目されているサラウンド・システムには、このマトリックスがよく使われていることも知っておいてもらいたい。
チューナー編 その4
 FMラジオやラジオ・カセットでは、放送を受けるためツマミをぐるぐる回す、いわゆるダイヤル目盛り板の中を指針が動いて、電波の周波数を示すものが多い。これに対して音質本位の受信器であるチューナーだと、指針を操作するダイヤルがなく、周波数の指示はメガヘルツ(MHz )単位の数値で示されるものが最近は多くなっている。
 その周波数は0.1MHz おきに限られ、微妙な選局ができないのではと心配するかもしれないが、許可されるFM放送局の電波は、必ず0.1MHz おきと決まっているので問題はない。
シンセサイザー 、略称シンセ式、あるいは デジタル チューナー とか電子式と呼ばれるのは、今述べたダイヤルなしで、直接周波数を表示するチューナーのことをいう。この型は、特定の電波を捕らえる同調回路の仕組みと部品が、ダイヤル式と違う。その結果、聞きたい局に同調をとる選局動作も、いったんその局の電波を覚えさせたボタンを押すだけで、容易に受信できる便利さがある。
 しかしシンセ式の普及品と高級品では、使用している部品の差により、受信音には相当な差がある。この違いは現在のように、FMのキー局から各地域のローカル局までの回線がデジタル化されている時代では、回線による音質劣化がないだけに、例え高価とはいえ、高級チューナーの値打ちとして、使用者にも十分な見返りがある。
 シンセ式でダイヤルによらない選局動作を、一般に『スキャン』といい、スキャンまたはチューニングというボタンを押せば、自動的に受信周波数が変わり、電波を捕らえると止まって、それを受信するオート・スキャン機能を持つ製品もある。これなら、選局も表示される周波数を見ながらやる必要がない。ただしシンセ式チューナーを選ぶときは、便利さだけに目を奪われずに、その音質に注意することを忘れないように。ニュース番組などのアナウンサーの声の切れ間に聞こえる雑音の多少が、目安のひとつとして考えられる。
チューナー編 その5
 FM放送の受信障害は、普通のAM放送とは全く違った形で表れる。例えばAM受信のように、蛍光灯の近くだと必ず混入するジャーッという雑音に悩まされることはない。しかし、FMはバイクや車がそばを通ると、バリバリと盛大な雑音妨害を受ける。
 これはFM独特のもので、 イグニッションノイズ といい、エンジンの点火栓が原因である。このノイズの完全な防止はまず不可能で、せめてアンテナからの引き込み線に、同軸ケーブルという、絶縁された芯(しん)線の外側に金属のアミ目をかぶせ、さらにその外側をゴム被覆した線を使えば、多少良くなる程度である。
 また飛行機が比較的近くを飛んだりすると、イグニッション・ノイズだけでなく、受信音が あおられた ように波打つ妨害も受ける。これに対しては、十分なアンテナを立てることが有効だが、いずれにしても高級チューナーほど、どの妨害に対しても強い。高級の値打ちである。
 以上のノイズは、いずれも音質を重視する使用者にとっては大敵だが、これ以外に分かりにくく特殊な障害に、 マルチパス というのがある。
 これはおなじ電波が、一部は直接、一部は高いコンクリートの建物などに反射し、百万分の数秒の時間差をもってアンテナにキャッチされることが原因だ。
 テレビでも、この障害はあり、テレビの場合は画像が二重写しになり、これは ゴースト という。
 それはさておき、FMでマルチパス障害を受けると、音質がつぶれたように濁り、ひどい時にはジュッというような雑音が大きな音の時に混じる。
 これを防止するには、アンテナの方向を変え、同じ局の電波でも、侵入方向が違う、直接と反射電波のどちらか一方を、より大きくとらえる向きにするとよい。
 その他、マルチパス・キッカーという、特殊アンテナを使うのも有効である。
チューナー編 その6
  エアチェック という言葉がいつ、どこから生まれたかは不明だが、この本来の意味は、放送電波を監視するための受信をいう。しかし現在は、それよりも受信と同時に放送を録音する意味で使われている。レコード店で試し聴きするのが難しいこともあり、エアチェックで新曲の中から好きな曲を探す人は少なくない。
 このエアチエックに関連して、高級FMチューナーが備えているスイッチに、その表示が「REC CAL」、正式名 レコーディングキャリブレーション というのがある。
 これの目的はエアチェックをする時、録音レベルを適切な大きさにするための補助機能で、受信自体には全く関係のない機能である。
 というより、このスイッチを入れてしまうと、受信は全くできなくなり、チューナーの出力は、音叉(おんさ)の音と同じプーという音だけになる。取扱説明書にも、このスイッチが入った状態だと受信できませんと、はっきり書いていないものもあるので、たまたま放送が聞こえず、プーという音だけになっても、あわてずにこのスイッチの状態を調べるとよい。
 実は、このプー音が録音のためのキャリブレーション(校正)用信号で、この信号の大きさは、FM放送で得られる最大オーディオ信号(100%変調出力という)の半分の大きさ(50%変調出力)のものである。
 そこで特に留守録音をする時など、この信号をデッキに加え、録音レベルメーターの指示が、マイナス8からマイナス10dBになる位置に、録音レベルのツマミをセットし、最後に忘れずにREC > CALスイッチをオフにして出掛ければ、人がいなくとも最も適切なレベルで録音される。
 もちろん留守録音には、タイマーが必要であることは、言うまでもない。
チューナー編 その7
 先週述べたREC > CALスイッチと同じように、FMチューナーで使う人をあわてさせるのが、 ミューティング である。この語源は音を弱めるとか、聴こえなくする意味のミュートで、これから転じて、オーディオ機器の場合でも、雑音、音楽を問わず、音を小さくすることをミューティングという。
 さてFMチューナーについているミューティング・スイッチの働きは、これを入れることで、放送電波のない周波数にダイヤルをセットしたときに出る、ザーッという大きな雑音を止めることだ。この雑音は、深夜、テレビ放送が終わった時に出る雑音と同じで、 局間雑音 という。
 このスイッチが入ったままだと、電波の入力が非常に小さい場合、音を聴いても雑音が多いからと機械が判断し、受信していてもアンプへの出力を自動的に止めてしまう。
 一方、FM電波は空中状態、例えば飛行機が近くを通過しても強さが変わる性質があるため、ミューティングをかけたままで、もともと電波の弱い遠い局や、粗末なアンテナで聴いていると、わずかな状態の変化で突然音が途切れることがある。そして状態次第でまた音が出るといった、放送局そのものが故障したような症状になる。もちろんミューティングがオフであれば、この症状は出てこない。
 ミユーテイングのスイッチは、理想的には選局の際にはオン、選局が終わったらオフにしておくべきスイッチで、特にエアチェックをしている時は、オフにしておくとよい。
 このように嫌われ者の局間雑音だが、音としてのすべての周波数成分を含んでいるという特徴がある。だから、これをマイナス15dB程度の大きさでカセットに録音し、その再生音と、チューナーから直接アンプを通して出る局間雑音を聴き比べ、直接音に一番似た音色で録音できるテープ、つまりそのデッキに一番合ったテープを探すという利用法もあるのだ。
※チューナー編はこの項で終わり。次回からはプレーヤー編になります。
LPレコード・プレーヤー編 その1
 LPレコードはCD(コンパクト・ディスク)に比べ話題性こそないが、曲の種類や演奏者を広く選ぶとなると、やはりその数はケタ違いに多い。加えて個人所有のLPが、国内だけでも数十億枚を超える現況からいっても、LPレコード・プレーヤーが、市場から消えることはまずあり得ない。
 ただし、製品として音質重視のものと比較的、普及価格帯のものとに分極化されることは避けられまい。またCDプレーヤーと違って、LPプレーヤーは、その価格に応じて音質もはっきり良くなる。
 LPプレーヤーの種類は、 操作のすべてを手動で行う マニュアル 型と、ほとんどが自動化されている フルオート 型、一部自動化の セミオート 型になる。このうち音質重視の中価格以上のものはマニュアル型が多く、フルオート型は一見便利そうだが、じっくりLPを楽しもうという人には価格がかなり高いものでないと音質的に不満が残ろう。
 これら操作上の区別とは別に、 リニアトラッキング 型といって、LPの外周から内周に向かう針先が、レコードの直径線上を直線的に動く方式のものがある。
 これは トラッキング という針先の移動形態としては、従来のトーンアームがその名の通り、腕と同じ円弧状の動きで内周に向かうオフセット型より新しく、理想に近い。というのは、リニア・トラッキングはLPの原盤を製作するときのカッターのトラッキングと同じ動きだからである。
 このリニア・トラッキングにも、横に動く小さなアームを持つものと、アームといえるものがないものがあるが、この両者は価格に比例した質の優劣以外、特に差はないと考えてよい。
 リニア・トラッキング型やフルオート型の中には、レコードを回転させながらレコード・クリーナーを当てて、ゴミを取ることが簡単にできないものもあり、この点でもマニュアル型の方が慣れればむしろ使いやすい。
LPレコードプレーヤー編 その2
 LPレコード・プレーヤーを構成する部品は、回転原動力の フォノモーター と、レコードの音溝を針先でたどり、それに従った電気信号を出力する カートリッジ 、それを保持しながらレコードの内周に送り込むためのトーンアーム が主役である(リニア・トラッキング型の中にはトーンアームを持たないものもある)。そして取り外し可能のカートリッジの先端部をシェルという。
 以上の主要部品のうち完全な消耗品は、カートリッジの針先部分で、その寿命は、ゴミをよくふき取った状態のレコードを使用するとして、だいたい8百時間程度で、よくレコードをかける人で2〜3年ぐらいと考えてよい。
 交換用の針はプレーヤー、またはそのカートリッジのメーカーが交換針として準備している。だが ムービングコイル 型、略称 MC カートリッジは針だけの交換ができるのは、むしろ例外で、針の寿命がきたときはカートリッジ全体を、やや安い価格で有料交換をする。
 しかし現実的に、価格が5万円以下でカートリッジが付属しているプレーヤーには、このMC型がついていることはほとんどない。
 カタログのカートリッジの項に、MM型( ムービングマグネット )VF型( バリアブルフラックス )とあれば、これらはすべて針先部のみの交換が可能である。ただし交換針は各カートリッジ間の互換性はないから、プレーヤーの型番とメーカー名、またはそのカートリッジの型番を覚えておく必要がある。
 本来、針のみの交換ができないMC型は、それ自体、品質的には優れたものが多いのだが、いずれにせよ、プレーヤー付属カートリッジで、針の寿命が尽きたときの具体的な処置は、事前に確認しておく方がよい。各種カートリッジの特徴は次回に。
LPレコードプレーヤー編 その3
 レコードの音溝をたどり、それによる振動に対応する電気出力を得るカートリッジは、得られる音質に最も大きい影響を持つ部品である。しかもその外観は精密さにあふれ、もっとも魅力的なオーディオ部品といえよう。
 構造上の種類は、振動を電気に変える発電方式、具体的には振動によって動かされる物によって分けられるといってよい。
 現在もっとも音がよいという定評を持つのは、強力な磁界内に置かれた、出力を取り出す微小コイルを振動で動かすムービング・コイル(MC型)方式である。しかし、この方式の電気出力電圧は、後に述べる他の方式のものに比べて10分の1から30分の1程度で、そのため特にMC用の入力端子を持つアンプか、その端子がなければ電圧を高める専用のトランスを別途必要とする。その音質は一般的に刺激的でなく、滑らかな特徴をもつ。
 このMC型に対し、コイルを固定し、針先からの振動で微少磁石を動かし、コイルを通過する磁力線を変えて発電する方式がMM型と呼ばれるムービング・マグネット型である。
 また別途に固定磁石を内蔵し、磁力線をよく通す特殊金属小片を可動物として用い、あとはMM型と同じ発電原理で出力電圧を得るものが、VF(バリアブル・フラックス)型とか、MI(ムービング・アイアン)型と呼ばれるカートリッジである。この二種の中の高級品は、一般的にMC型より針圧は軽くてよく、明快な音質を特徴とする。
 方式のいずれを問わず、高級品は、その針先の断面形状が、だ円状になっており、エリピテイカルとか、さらに鋭いだ円状のものはラインコンタクト針と称し、普通の円すい状のヨーカル針より高音域の再生能力が格段に優れたものになっている。
LPレコードプレーヤー編 その4
 カートリッジは、普通は取り外し可能のアーム先端部、 ヘッドシェル に取り付けられている。この構造になっているのは、カートリッジ本体は互換性があり、品質的にピンからキリまでの製品が多数、単品売りされているからだ。
 そこでオーディオ・マニアともなると、数種のカートリッジを持ち、それぞれが持つ音質の違いを楽しむことになる。
 この場合、カートリッジを変えるごとに、シェルから外し、また付けるのはめんどうなので、シェルも複数個用意し、それぞれにカートリッジ、を付けた状態で持っていれば、簡単なシェルの付け外しだけで、カートリッジによる音変わりが楽しめる。
 だが現在、このシェル形とアームへの着脱プラグは二種類あり、すべてのアームに対して完全な互換性があるわけではない。例えば、使われているアームが直線状で、シェルの付け根の所で、やや内側に曲がっている通称ストレート・アームは、シェルもそのアーム専用として、別売りされているものしか使えない。
 このストレート型は、シェルの互換性には欠けるが、曲げられたパイプを用いたアームより、新しくかつ優れた点もある。しかし、音の上での差は、そう大きくはない。
 一方、カートリッジとシェルの取り付けについては、リニア・トラッキング型プレーヤー以外、ほぼ完全に規格化されており、手先の器用な人なら難しくはない。だが、その際に針先可動部を傷める危険もあり、購入のときに店の人に取り付けてもらう方が安全である。
 カートリッジを変えた場合、忘れてはいけないのが針圧の調整で、これだけはアームにカートリッジを付けた状態で、そのプレーヤーの針圧調整の項の初めからの手順に従い、そのカートリッジの指定針圧を正しく与えなくてはいけない。
LPレコードプレーヤー編 その5
 トーン・アームの善しあしは、一般に非常に理解し難いが、カートリッジの特性を生かすも殺すも、このアーム次第で、良いアームがついているプレーヤーは価格も高い。
 プレーヤー編の初めに述べたとおり、アームの動きには、針先が直径線上を直線的に移動するリニア・トラッキング型と、円弧状の軌跡をとるオフセット型がある。
 このリニア・トラッキングが、より理想に近い動きである理由は、カッターでレコードの原盤に音溝をきざむ時の動きと同じだからである。そのため、カッターの動きと再生針先の軌跡が違うことによって起きるトラッキング・エラーが原因のひずみが起き難いのだ。しかし、このエラーによる音の劣化は聴感的に大きなものではなく、型にこだわるよりも、相応な値段のプレーヤーを持つ方がよい。
 一方、オフセット型の高級品には、オイルまたはリキッド・ダンプと呼ばれるものがある。これはアームの上下、左右の動きの支点部に、シリコン・オイルのような粘液体を加え、動きに粘りを与えたものである。
 こうするとレコードの偏心(しん)や反りによって発生する、ゆっくりした左右上下の動きに対しては軽く円滑に、音溝によって針先に加わる速い動きには支持ががっちりできる。これは水中で手を速く動かす時は重く、ゆっくりなら特に抵抗を感じないのと同じ理由である。
 アームの支点は、もちろん軽くなくてはならないが、仮に針先に加わる動きと同じにアーム全体が動いてしまえば、針先は動いていないのと同じで出力も出ない。ということから、このアームの狙いも分かる。ただし、オイル・ダンプでなくても、針先とアーム全体の質量はもともと大きく違うため、今述べた極端なことは、普通には発生することはない。
LPレコードプレーヤー編 その6
 LPレコード・プレーヤーを使うには、少なくともコンパクトディスク・プレーヤーよりも注意と神経を払う必要があり、そのひとつが針圧である。しかもこの針圧は、そのカートリッジの針先の柔らかさに応じた、それぞれのカートリッジ固有のもので、使う側で勝手に決められるものではない。カートリッジに指定された適正針圧を必ず守ってほしい。また、針圧は英語だとトラッキング・フォース、直訳すると追跡力という。
 一般に動きの柔らかいものは針圧も小さくてよいが、針圧は本来音溝を正確にたどるに必要なもので、針圧が重いとレコードを傷つけやすいと考えるのは間違いのもとだ。例えば、レコードの損傷が心配で、針圧を軽めにセットすると、大振幅や鋭い高音部で針が音溝から浮き、それが理由でかえってレコードを傷めてしまう。
 一般に針圧は適正一点で示さず、1.6gから2gというように、適正動作が得られる範囲をもって示される。この場合、部屋の温度が低めの所なら、この範囲の中で重い方寄りにし、室温が20度であれば中心値、それより高い温度なら軽めにするのが原則である。
 針圧のかけ方は、アームによって手順が違うから、説明書に正しく従う必要があるが、針圧をアーム前後の重力差でかけるものと、アームに内蔵されたスプリングの弾性力によってレコード面に圧着させるものの2種類がある。
 重力差によるものをスタティック・バランス型といい、この方が製品としては多く、スプリング使用のものをダイナミック・バランス型といい、高級品に多い。こちらは部品が多いという欠点はあるが、重力差を利用していないため、プレーヤーの水平度によって針圧が影響を受けない長所がある。
LPレコードプレーヤー編 その7
 LPレコード・プレーヤーで大切な特性は回転数と、回転そのものの精度である。ここで大切なのはモーターの質であり、モーターの回転をターンテーブルに伝える伝達機構ということになる。
 現在、国産プレーヤーのほとんどはDD(ダイレクト・ ドライブの略)モーターといって、所要の回転数そのもので回る低速サーボ(制御)モーターが使われる。このDDモーターを商品化したのは日本で、大いに誇ってよいと思う。このモーターを使えば、当然ターンテーブルの軸とモーター軸の連結伝達機構は不要で、この部分の経年変化による特性の劣化もない。
 DDサーボ・モーターの動作は、回転数を検出する回路を持ち、この検出結果が所定の回転数の場合とずれると、ただちに、かつ自動的にモーターの電圧を上下させ、そのズレがなくなるように回転を正す。ただし、長時間にわたってジワジワと回転数が変わる変化には、回転数の検出後、それが正しいかどうかを比較するための基準に、高精度時計に使われる水晶発振器の出力を使った、クオーツ・ロック型のものでないと、回転数を正しく維持できない。
 またDDモーターには交流用(AC型)と直流用(DC型)があり、DC型は回転力は大きく出るが、コギングといって1回転中に回転力のムラが出やすく、完全に滑らかな回転を得るには、比較的重いターンテーブルを必要とする。
 一方、AC型はコギング現象はほとんど出ないが、回転力はDC型より弱い。
物事すべて一長一短である。外国製品には、DD型は少なく、ベルトでモーターの回転を減速伝達するものが多い。これは、高い工作精度が必要だが、単純に良質な回転が得られる利点は大きい。
LPレコードプレーヤー編 その8
 波形に刻まれた音溝からの振動を原点として、電気信号を作り出すLPレコードのシステムの弱点は、外部から加わる予期せざる振動である。この外部振動による異常状態の代表的なものが、ハウリングと呼ばれる症状だ。これはレコードをかけている時、音楽とは無関係のウワーンという、音楽を聴くこともできなくなるほどの異常音のこと。
このハウリングは、スピーカーから出している音が大き過ぎると、その音による振動が、かけているレコードやアームに伝わり、この振動による出力をスピーカーに加え、その振動による出力をまた増幅して、さらに振動を加えるといった、悪循環の繰り返しが原因。
 現在のプレーヤーは、こうはならないようにプレーヤーの脚に適度な弾性を持つものが使われ、外部からの振動をシャットアウトするように作られている。だから今述べたようなハウリングに至ることは少ない。
 しかし、きゃしゃな台の上にスピーカーと並べてプレーヤーを置いたり、小さな部屋で音圧が特に上がりやすい隅にプレーヤーを置いて、やたらに大きな音にすれば、異常音の発生にまで至らなくとも音が濁ったりハウリングしかかりの変な音を聴くことになる。重量の軽い普及品プレヤーは、特にこうなる危険がある。
ハウリングに対して安全かどうかを調べるには、止めてあるレコード盤上に針を下ろし、音量ツマミをいつも使う位置に上げ、プレーヤーを指先でトントンたたいて振動を与えてみる。音が歯切れよくスピーカーから出るようなら合格だが、音が後を引いて響くようなら、プレーヤーの防振処置を専門店に聞く方がよいだろう。
アンプ編 その1
 増幅器という意味のアンプリファイアーを略したアンプという言葉は、オーディオ好きに限らず、演奏関係の人々にもなじみ深い。だが一口にアンプといっても、その内容や働きによって各種の名前がつけられると、アンプのもとが専門的な電子回路だけに、意外にあいまいな意味としてしか知られていない。
 そこでアンプの基本的な条件をいうと、その人力、出力ともに、同種同質の電気信号を取り扱うものと思えばよい。
 例えばチューナーのように入力が電波、出力がオーディオ信号で、どちらも電気という点では同じでも、異種の信号を扱うものは、その内容の主体が増幅でもアンプとは呼ばない。
 さてステレオ装置に使われているアンプを大きく分けると、まずスピーカーを鳴らすための電力を出力とするメイン、またはパワーと呼ばれるアンプ。プレーヤーやチューナーからの出力を、メインアンプの入力用まで増幅するプリアンプ(プレ・オリンピックのプレと同じ言葉の「前」という意味)以上の2種類になる。
 この2種類のアンプは、高級品だとそれぞれ単独に商品化され、これらに対しては総称的にセパレートアンプと呼ぶ。当然、このセパレート式でステレオ装置を構成するには、ブリとメインの2台が必要になる。
 さらにこのメインアンプも、出力が数百Wの大出力になると、大きさ、重量とも大きくなり過ぎるため、ステレオの左と右用を各独立させる形式をとり、この方式をとったアンプをモノ構成のメインアンプと呼ぶ。
しかし一般に最も普及しているのは、プリとメインの両方を一体として、製品化した通称プリ・メイン型と呼ばれるものであり、最高の品質を望まなければ、これで十分。
 だが、この型の品質差は極めて大きいことも知っておいてほしい。
アンプ編 その2
 プリ・アンプの働きは、増幅そのものよりも、ラジオを聴くかレコードを聴くかの入力の選択(入力セレクター)と、それらを録音用の出力端子に出す録音(RECセレクター)、聴いている音の音色を変えるトーン・コントロール、音量を調整するボリューム・コントロール、ステレオの左右の音量をそろえるバランス・コントロール、ステレオかモノかを選ぶモード・スイッチなど調整機能をつかさどる働きの方が大きい。内容的には、これらの調整回路の合間にアンプが置かれているといえばよい。
 これらのアンプの中で、特に特殊なアンプといえるのは、LPレコード・プレーヤーからの出力、つまり先に述べたカートリッジの出力のみを増幅するフオノ・イコライザー・アンプである。
カートリッジからの出力は、他のチューナーやCDプレーヤーからの出力に比べると、100分の1以下で、かつレコードに入っている音は高音を強め、低音を小さくした、もとの音色と違った音色になっている。そのため、カートリッジの出力を受けた時点で、増幅と同時に低音を強め、高音を弱めて、もとの音色と同じにする必要がある。
フオノ・イコライザーはこのためのアンプで、イコライザーとは等しくすることの意味である「等化」ということだ。しかし、カートリッジと一口にいっても、ムービング・コイル(MC)型は、他の型の出力のさらに20分の1程度であるため、これに対してはフオノ・イコライザー・アンプの感度を、それに応じて高めなくてはならない。
そしてこれができるイコライザーを持っている場合を、カタログやパンフレットでいう、MC対応型ということなのである。
アンプ編 その3
 先週述べたMC型対応イコライザーは、プレーヤーからスピーカーまで一括セット売りの、比較的普及価格のステレオ装置だと備えていないものが多い。この場合、音を聴くだけなら、イコライザーの感度が不足でも、ボリューム・ツマミを上げて使えば、実用上、音量がひどく不足するということはない。
 しかしこれは使い方としては正しくなく、雑音も大きくなってしまう。それ以上に困るのは、この便法的使い方だと、レコードをカセットに録音するとき、デッキの録音レベル・ツマミをいっぱいに上げても、十分な録音レベルにならないことがある。この状態で録音したテープは、再生時のテープ雑音に対し、信号が小さく、結果的に雑音の多い音になってしまう。
 トーンコントロールは、低音域(バス)、高音域(トレブル)を個別に上昇下降できるものが基本型であるが、これ以外にヤング指向というか、普及品つまりオーソドックスな構成を避けた製品だと、グラフィック・イコライザー型のトーンコントロールがある。これは低高それぞれの音域全体を強めたり弱めたりせず、特定の高低周波数何点かを中心にした強め弱めで、トーン(音色)の調整を行うものだ。これだとコントロール用のツマミ数は、高低2個の基本型より多く、五個以上になるため、そのあたりが一部使用者にうけているのだろう。
 いずれにせよ、これらによってトーンを調整する場合、高音不足を感じたとき、高音を強めて気に入った昔にするより、逆に低音を弱めて高低音のバランスをとるように使うことを勧めたい。こうすれば、音色の是非よりもつと大切な、音の質を劣化させることがないからである。悪質な音は、聴けば聴くほど疲れる一方で決して楽しむことはできない。
アンプ編 その4
 この数年来、目に見えて大きくなったのはアンプの出力で、今ではラジカセでも20Wのものがあり、コンポーネント(セットではなく単品売りの製品)アンプではほとんど70W以上である。
 だが、これら公表される最大出力は、それを出している時その中にあってはならない、入力にない成分がどのくらい含まれているか、その量をどの程度とした時の出力なのかは、いわば製品の格によって違う。またこのような格差は出力に限らず、表示される電気的特性には、すべてあるといってよい。具体的に、この格差の順序は、良い順にコンポーネント型、普及価格のセット売り製品、そしてラジカセとなる。
 一方、メーカーの方も販売面で表ざたにこそしていないが、製品の格を品質重視のハイファイ(高忠実度)オーディオと、量販を重視した家電機器の枠内製品であるゼネラル・オーディオとに分けている。
 そのため、同じ50Wとはいえ、そのアンプの格が違えば、その内容、実力は大きく違う。
 この隠れた格差のひとつが、前に述べた出力が含む入力にない成分(ひずみ)の量で、これを出力に対し%値で表したものが、ひずみ率である。
 もちろん、これは小さいに越したことはない。例えば、ハイファイ仕様のアンプなら、ひずみ率0.005%以下が一応の基準だが、さらにこの値が周波数20Hz (ヘルツ)から18kHz 、つまり人が聞ける低高音全範囲にわたって維持されていることが重要だ。
 実は、ひずみ率も出力も、単なる数値そのものより、その値がどれだけ広い周波数範囲で維持できるかが、最も格差の出るところなのだ。例えば、中音だけなら20W出せても、低音や高音では10W止まりになるのは、貧弱なアンプの、いわば悪い特徴である。
 単なる表示値のみの比較で、製品の格差がないように思うことが、本当に音楽を美しく聴けなくしている一番の原因だろう。
アンプ編 その5
 出力が大きいから音量も大きい、というのは間違いで、大出力アンプは出そうと思えば大音量も出せる、というのが正しい。現実としてその時出しているアンプの出力は、ボリューム・ツマミの上げ下げで、どのようにも変えられ、普通の家庭で音楽を聴いている状態では、瞬間的に入力が増加する楽曲中の大音量部でも、アンプの出力が50Wを超えることはまれである。
 この場合、平均して出ている音量を得るに必要なアンプの出力は、最大出力にかかわらず0.1W程度で、実際もこうなるようなツマミの位置で使われている。つまり、アンプの最大出力の大小は、たまに加わる大人力に対するゆとりなのである。
 その結果、平均音量と瞬間的大音量との差が、比較的大きいクラシック音楽を好む人は大出力アンプが生きるが、差が小さなポピュラーやロックを聴く人は、平均音量をご近所に迷惑がかかるほど大きくする以外、そう大きなゆとりは必要にならない。
 さて、アンプの特性で、よく使われる半面、分かり難いのがSN比である。この言葉のSはシグナルの略で、この場合音楽の信号をいい、Nはノイズ、雑音の略だ。そしてSN比とは、出力をその中に含まれる雑音で割った値で示し、それをdB(デシベル)で表す。つまり数値が大きいほど、信号に対し雑音が小さいことを意味する。SN比とは、正確ではなく、かつ間接的だが、アンプから発生する雑音の量を示すともいえる。
 例えば漠然と「○○のアンプはSNが良い」といえば、雑音防害の小さいクリアな音のアンプのことである。だが今日のアンプは、なべてSN比は良好で、実際に音楽を妨害する雑音はアンプからよりも、アンプの入力コードが拾い込むものの方が大きい。コードの引き回しには要注意。
アンプ編 その6
 アンプのカタログなどでその特徴をいう場合、A級(クラス)とかB級、AB級という言葉がよく出てくる。これはアンプの終段、つまりスピーカーに電力を送り込む専用アンプの働かせ方(動作方式)をいう専門用語だ。
 まずB級動作とは、音楽信号のプラス側半分とマイナス側半分とを、それぞれ個別にトランジスタを用いて増幅する方式をいい、長所は同じ出力を得る場合、他の方式より発熱量が少なく、結果として能率が高いことがある。
 半面、短所は、2個のトランジスタがプラス側、マイナス側と交互にスイッチされながら働くため、その切り替わるところで、スイッチングひずみという波形変化が起こりやすいことだ。
 しかし、これに対し中級以上のアンプでは、各社独特な回路をつけ加え、このひずみが出ないようにして、まず解決しているといってよい。この種のアンプの名は各社まちまちで、ノン・スイッチング方式というそのものズバリの名以外に『○○A』などとA級にあやかつた名前が多い。
 A級は2個のトランジスタを用いる点ではB級と同じだが、それをプラス、マイナス専用として用いないために、スイッチングひずみの心配は全くない。半面、発熱が大きく能率も低いため、大出力の製品は少なく、高価になる。
 だが、このムダを承知でA級にすれば、ひずみは防止回路も必要なく、回路動作ともに単純明快な構成になるため、質の向上がすべての点で有利になる。いわばA級は、信頼性と高級かつぜいたくなアンプの代名詞といえよう。
  > AB級は、小出力時はA級、それを超えるとB級動作になる方式で、いわば両者の中間だ。これならば、大出力時に前述のひずみが出ても、出力が大きいところだから妨害度は小さく、能率も悪くない。
アンプ編 その7
 中級以上のアンプのカタログに、NFBという言葉がよく出てくる。日本語でいうと、負帰還。ネガティブ・フィードバックの略で、その根源は第二次大戦中に考案された、近代アンプの根源といってよい回路の名前である。
 その働きは、この回路によって増幅度を十分の一に下げてやると、同時にアンプのひずみ、つまりアンプを通すことで出力が入力と正しく同じにならない欠点も、ほぼ10分の1にすることだ。増幅度を下げることを覚悟し、NFBの量を多くすれば、ひずみは理論的には何千分の1にもできる。
 しかし、このことから、NFBはしょせんアンプの美容整形技術と同じ、というNFB否定説が出ても不思議ではない。事実、NFBをかける前の特性というか、素性の悪いアンプはNFBをかけてもその素性の悪さまでは救えない。NFB回路が本当に生きるのは、もとのアンプの品質が中の上ぐらいであることが前提だ。
 NFB回路の内容を簡単にいうと、アンプの出力の一部を入力端子側に戻して両者を比べ、出力と人力の波形が常に同じになる、つまりひずみが小さくなるように、自己補正する回路接続である。これを所期通り正確に行わせるには、いわゆるノウハウがかなりあり、へたをするとアンプの安定度を悪化させてしまう。NFBはできる限り美容整形的ではなく、必要に応じた薄化粧程度にとどめるか、またはノウハウを得ての上で、十分にかけるのが本道だ。
 この前者に属する方向が、ZDR(ゼロ・デイトーション・ルール)とか0dB(ゼロ・デシ)帰還と呼ばれる、ノンNFB方式であり、後者に属するものの名称は数多いが、リニアNFBがその代表的な方式といえよう。
アンプ編 その8
 前回述べたNFB(ネガティブ・フィードバック)に類似したアンプ技術に、サーボという名がつけられた一連の回路、あるいは方式がある。
 本来、サーボとは自己制御という意味で、その意味ではNFB回路もサーボの一族といえないことはない。しかしサーボという言葉が市民権を得た時点では、物の回転や動きを常に望ましい状態に保つための自己制御システムのみに用いられていた。
 しかしNFBをその基本的な効果であるひずみ低減以外にも使える回路が、新しく実用化された時点で、動きのないアンプの分野でもサーボの名称が使われるようになった。同時にサーボと名付けられた回路方式、一般にDCサーボという回路は、現在のアンプが持っている望ましくない特性を単なるNFBによる以上に改善したことも事実である。
 そこでこの望ましくない特性だが、真空管を用いたアンプ以外、現在のアンプのほとんどは直流電圧の増幅も行える。これは良い面で見れば、直流まで、つまりどんな低い周波数でも増幅できるということになり、特にこれに対してはDCアンプという敬称がつけられてもいる。
 しかしその半面、出力に直流電圧が出てくるということは、出力につながるもの、特にスピーカーにとっては決して良いことではないし、基本的に音楽の信号には直流電圧はない。この点から言えば、DCアンプは良いことずくめではない。
 むしろ音楽信号にないような数ヘルツ以下から直流までは、増幅能力を持たない方がすべての点で望ましい。アンプにおけるサーボとは、この要求を他の特性を犠牲にせずに得られる回路で、その実用上の効果は著しく、NFBと双へきを成す回路といってもよい。
アンプ編 その9
 ステレオ再生に絶対必要なアンプ以外に、補助的に働く単体売りのアンプも市場には数種ある。その中で、テレビ画面の大型化とビデオの普及から脚光を浴びているのが、サラウンド・プロセッサーである。
 サラウンドとはスピーカーを前方左右2本だけに頼らず聴く人の左右または後方にも設置し、周辺からも音を出して、より効果的に音や音楽を聴こうという方式である。
 ここで単に前方左右と同じ音を、それ以外の場所から出すだけなら補助アンプは特に必要ないが、これでは音に響きを加えたり、より画像にマッチした再生をするには十分とはいえない。そこで本来の左右のステレオ信号から、前方左右以外のスピーカーから出す信号を別途取り出したり、改めて作ったりする必要が出てくる。サラウンド・プロセッサーとは、このためのアンプで一般のアンプとはまったく目的も内容も違っている。
 一方、前方左右以外のスピーカー用信号を、どのようにして取り出し、かつ変えるのがより効果的かは、今のところはっきりしているわけではなく、その半分は各メーカーの考え方により、あと半分、特に変え方についてはプロセッサーの前面ツマミによって、使用者がその程度の調整ができるようになっている。
 しかし基本的には前面左右の信号間にある違い分、技術的には差信号成分を取り出し、これと左右各信号をもととして、サラウンド用信号を作る。さらにこれの変え方で代表的なのが、タイム・ディレイ(時間遅れ)処理で、サラウンド用の音を、本来の左右音より千分の数秒から数十秒遅れて出すようにすることだ。こうすることによって単純に得られる効果は、音に響きが加わったようになり、広い場所で聴く音に似てくるのである。
スピーカー編 その1
 その道の人は単に「箱」、専門語ではエンクロージャー、そしてその中間がキャビネットと、スピーカーの外箱の呼び名は多い。この箱のことを人の衣装と同じに見る人がいるが、実は衣装と違って中身(人柄)で勝負とはいかず、出てくる音の大半を左右する。
 また、箱が大きいから大きな音が出ると思う人もいるが、これも間違いだ。ディスコでなく、家庭で満足できる音量までなら、箱正面面積が1200平方p以上ある箱のスピーカーは、音量について同じ能力なのである。高価格品なら、さらに小型でも大丈夫。安くて小さくとも、やかましい音質を我慢すれば(実はこれが大問題)、音量だけなら頑張れる。
 だが音色、特に低音を美しく聴くには、箱の大きさがものをいう。出せる低音の限界とその質の半分は、箱の大小で決まる。しかし国内製スピーカーと違い、外国製は小さくとも高いが、値段相応の立派な低音を出す。
 箱の種類に関する用語も数多いが正面に穴のあいている通称「バスレフ箱(バス・フレックス)」は、ほどよい中小音量で、伸び伸びした音を出す傾向を持っている。空気洩(も)れのまったくない「密閉箱」は、比較的輪郭のはっきりした音色に特徴がある。
 さらに使い勝手にかかわると、「ブックシェルフ型(本棚の意味)」は、本棚に置ける程度の寸法で、かつ縦横どの向きに置いてもおかしくないように、側面周囲四面すべてを美しく仕上げられたスピーカーを指す。だが、わが国の住宅事情からいって、スピーカーが安心して置ける頑丈な作り付けの本棚は少なく、抱え上げられる程度の大きさまでを、本棚に関係なくブックシェルフ型といっている。また、「フロアー型」といえば、床に置くしかないほどの大きな箱をいう。
スピーカー編 その2
 音のもとである電気を振動に変える部品としてのスピーカーの名は、正確にはスピーカー・ユニット。これが前回述べた「箱」に取り付けられると、スピーカー・システムとなる。余談だが、スピーカーも日本的省略英語で、英語圏ではラウドスピーカーといわないと通じない。
 スピーカー・ユニットも、ひとつで低音から高音まで再生できるように作られたものをフル・レンジ型という。
 最近では、音域によっての専用ユニットを使ったシステムが圧倒的に多く、低音専用ユニットをウーファー、高音専用がトゥイーター、中音専用(だいたいボーカルの音域)はスコーカーと呼び分け、その大きさは高・中・低の順に大きくなる。
 高中低計3個のシステムを持つものを3ウエーと呼び、中音部を高低2個のユニットがそれぞれ音域を広げて受け持ち、トゥイーターとウーファーで構成したシステムを2ウエーと呼ぶ。
 こう書くと3ウエーの方がユニット数も多く、なんとなくよさそうに思えるが、大切な音の質と音域の広さでは、基本的に両者の差はない。両者の違いがあるとしても、使う場所に対する適合性くらいで、六畳以下の部屋では3ウエーはその欠点が出やすくなる。逆にいうと、広い場所で離れて聴くには3ウエーは向いている。
 この欠点とは、近い距離で3ウエーを聴くと各ユニットの音が自然に混じり合わず、散漫な音になりがちなのだ。高中低と分けて音を出す楽器などなく、これはこれで当然なのである。特に出している音量が小さめになると、散漫になる傾向が著しい。
 場所が広ければ、当然出している音量も大きいから3ウエーにとっての条件は良い。反対に2ウエーは散漫な音にはなりがたいが、音量感を望むにはそれを左右するスコーカーがない分だけ、条件が悪くなるのである。
スピーカー編 その3
 前回述べた高・中・低各ユニットの違いは、振動部の違いによって、また名称が違ってくる。
 コーン型は一番古くから使われ、かつ低音用に多いジョウゴ型の振動板のことをいう。これに対し、数年前に実用化された平面板を振動部に使ったユニットが、平面スピーカーである。平面スピーカーの長所は、聴感ではわからなくとも、理論的には音に強弱がつかない、つまり平たんな周波数特性がコーン型よりも得やすいことだ。
 さらにピストンモーションといって、振動板全面がしなわずに、まったく同じ前後運動をさせるにも良い条件を持つ。
 しないながらの振動を分割振動といい、この振動をともなった動きで発する音には、入力以外の音がわずかながら混じるため、音質とは別に忠実度の点で技術者は嫌う。一方平面スピーカーは、専用の軽く硬い振動板用新素材をバックに、構造設計上の自由度も広く、結果として分割振動に強いものを作りやすい。だが新しい材料を用いたコーン型は、分割振動の点では平面型にひけをとってはいない。
 ドーム型の振動板は、おわんを伏せた形で、前にふくらんでおり、コーン型のへこみ空間がなく、音を出す目的には一番優れたものである。しかし大面積で、かつ大きな振幅が要求される低音用は構造的に作り難いため、今のところは中・高音専用ユニット用としてだけ使われている。また同じドーム型でも、ソフトドームと呼ばれる比較的柔らかい材料を使ったものと、金属を使ったハードドームとがある。
 日本製は大人力に強くかつ量産と忠実度指向に向くハードドーム、外国製品はソフトドームを使ったシステムが多い。これは音に対する考え方の違いで面白く、外国製は強調感の少ない、その名の通りソフトな高音を特徴としている。
スピーカー編 その4
 もともと音を言葉で表すのは難しく、そのせいかスピーカーの宣伝は、振動部に使用している、いわゆる新素材に 集中している。事実、振動部材料は音質への影響力が大きい。だが、それだけで再生音質が決まることはない。
 振動部材料として望まれる特性は、1.軽いこと 2.ヘナヘナしない強さ 3.指で弾いても全体が共鳴しにくい適当な硬さの3点になる。この3.項の適当な硬さを表す言葉が 内部損失 で、これが大きいことは、材料そのものは音を伝え難い性質であり、別の言い方だと2.の強さとは相反する性質となる。
 このように良い振動板材料とは、相反する性質を適当なところで折り合いをとったもので、これは材料および振動板を作るときの製法にかかるところが大きい。
 適切な材料として長い歴史を持つのが紙であるが、均一な品質を望むと量産向きではなく、現在の主流はカーボン(炭素)繊維を木質パルプ繊維のかわりに用い、結着材を用いて成形したものである。作り方は各社それぞれ違い、名前も「カーボン○○」というように多種多様な状態だ。
 相反する条件を折り合わせる方法として、2種類の材料を合体させた二層構造をとったものも多く、金属の上に炭素を主原料とするダイヤを被着させた材料もこれに属しよう。その他、セラミック(一種の焼き物)を焼き付けたもの、硬く軽い金属に軟性金属の金を表面にメッキして、硬さと内部損失の折り合いをとった材料などもある。
 しかし、いずれにせよ、新材料だから音が良いというわけではなく、材料そのものに目を奪われないようにしたい。激しく動く振動板をどのように保持しているか、そのためには周辺を支えるエッジや中心位置を正確に出すダンパーの構造、素材が今後の課題となろう。
スピーカー編 その5
  近ごろスピーカーの種類として仲間入りしたものに、AV(オーディオ・ビデオ)用とサラウンド用、またはサブ・スピーカーがある。このAV用の特徴は、使っ ているスピーカー・ユニットが持つ磁石からもれだす磁力線が、 少なくともキャビネット外部には出ないことである。
 このことは、テレビ受像機の横にスピーカーを置く場合に重要で、ブラウン管に外部から磁力線がかかると画像がひずんだり、色合いの一部分が全く変わってしまうなどの障害を起こすからだ。このAV用が作られた背景は、良音質のスピーカーにとって、強力な磁石の使用は不可欠であるという理由によるものだ。
 サラウンド用スピーカーは、アンプ編の最後のところで述べた、音響効果をより高めるために、正面以外の場所に設置するためのもの。そのため、置き場所をとらず、壁にかけてもよいように、小型に作られている。
 しかし本質的、かつオーディオの本道である音楽を、より良く聴くことからいえば、スピーカーが左右2本では不足ということばなく、サラウンド再生は、ある種の目的に対する、いわばお遊び的手段と考えた方がいい。
 このサラウンド用スピーカーと間違いやすいものに、音場再生型というスピーカーがある。これはスピーカーを箱の前面以外の所にもつけることにより、部屋の周囲からの反射音も、積極的に利用しようというものである。
 この型は品質も価格差も大きいが、共通点は再生音に響きが自然に加わり、演奏会場的な音になることであろう。一般に臨場感(プレゼンス)といわれる効果追求の、ひとつの手段である。
スピーカー編 その6
 今回は基礎用語からは少し離れるが、前回に述べたサラウンド方式による再生音を、最も簡単に試す方法を紹介してみたい。用意するものは、小型のサブ・スピーカーを1個か2個と、電源コード用として売られているビニール被覆の平行線を必要な長さだけ。
 1.サブ・スピーカー1個の場合(図A)
 サブスピーカーの+(プラス)と−(マイナス)2個の入力端子に、それぞれ線をつなぎ、その先をステレオ・アンプの前方左右スピーカーがつながっている出力端子の各+側につなぐ。この時、+と−の間には決してつながないように注意してほしい。接続がすんだ状態でレコードを再生すると、新たにつけたサブ・スピーカーからも、前方スピーカーよりもずっと小さいが、音が出てくる。
 サブ・スピーカーから出ているこの音は、サラウンドのもとともいえる、前方左右の差信号音(左右の違いにあたる音の分)なのである。そこで、このサブ・スピーカーを適当な距離をとって後方に置けば、歌は前から、音楽は体のまわりにフワッと広がってくる。
 2.2個の場合(図B)
 図Bのようにつないでから、アンプの出力端子に1個の時と同じようにつなぐ。この時はサブ・スピーカーを聴き手の左右に置いた方が効果があがる。この方法なら、1.の場合より一層左右の幅が広がって聴こえるはずである。
スピーカー編 その7
 スピーカーシステムの表示特性からその音質を知るのは難しいが、その項目の内容がわかれば合理的な選択やアンプとの組み合わせの役に立つ。
 1.インピーダンス 交流信号入力に対する抵抗成分の値で、8オーム(Ω)か六オームが多い。これ以下の値もあるが、六オーム以下のスピーカーに組ませるアンプは、低インピーダンス駆動能力の充実をうたった中・高価格品が望ましい。
 2.周波数特性 同一入力で音量が約3分の1(マイナス10デシベル=dB)に下がる低高両端の周波数が示される。だが、この低端周波数での低下は、反響がありかつ壁に沿って置かれるスピーカーの実用状態では、多くても半分程度におさえられる。半分の音量とは、アンプの音量ツマミを30−45度、下げた時に得られる低下とほぼ同じである。低音がブンブン出るだけでなく、その音程の変化も聴きたいのなら、表示低端周波数が70Hz 以下のスピーカーを使いたい。
 3.出力音圧レベル 公称インピーダンス値に対し、1W相当の入力を加え、1m離れたスピーカー正面で得られる音量を、dB換算した音圧で示した値。この値が大きければ、電気を音に換える能率が高くなり、標準値は87−91dB程度で、数値が小さくなるほど同じ音量を得るには、より大きな入力がいる。目安として87dBなら120Wの出力が出せるアンプ、90dBなら半分の60Wで十分だが、一般的には組ませるアンプの最大出力が、スピーカーの定格入力以上のものを選ぶのがよい。
 だが一方、出力音圧レベル90dBのスピーカーに1Wの入力を加えて聴く音量は、3m離れた所では、怒鳴り合う感じでないと、隣の人には話が通じないほどの音量だから、出力音圧レベルの低さはあまり問題にならず、むしろ低いものの方が低音が豊かに聴こえる傾向がある。
スピーカー編 その8
 ステレオ再生本来の目的が、ただ音楽が聴ければよいというものではないだけに、再生音の表現や音の状況説明に使われる用語の種類はかなり多い。今回と次回は、主だった言葉にふれてみよう。
 1.音像 音を出しているスピーカー以外の所に、あたかも楽器や歌手が存在するかのように、音だけで位置を感じる像のこと。この音像の再現ができるのは、ひとつのスピーカーでは決して得られないステレオ独特の効果である。音像の意味を具体的にとらえるには、ステレオではないFM放送を聴くと、アナウンサーが左右スピーカーの中央に座っているように感じることで体験できよう。
 2.定位 音像が左右スピーカーの間のあるべき所に位置し、かつそれが不明りょうになったりフラフラ動いたりしない場合、定位が良いという。この定位のありさまをとらえるには、室内楽のような各楽器の位置が決まっている曲を再生し、左右スピーカーの中央に位置して聴けば分かりやすいと思う。
 3.直接音 スピーカーから直接耳に到達する音だが、現実の室内で聴く音は直接音と周囲から反射されてくる音が混じった音になっている。この反射音成分は、音につやと響きを加える効果があるが多すぎると細やかな音が失われる。同じスピーカーで部屋によって音が違うのは、反射音成分の在り方の差である。
 4.ライブ 音の反射が起きやすい環境をいい、デッドはその逆の状態をいう。一般に、固くしっかりした壁面で囲まれた洋間はライブに属し、典型的な日本間は比較的デッドである。しかし、洋間でも適当に家具が置かれれば、度の過ぎたライブな部屋にはならない。手をたたいた音の響き方が、不自然なほど尾をひいて聞こえなければ、ステレオを聴く部屋としては合格。
スピーカー編 その9
 音質表現用語には、科学的なものもある半面、流行語的なものもある。
 1.プレゼンス 音の良い悪いという要素とは別に、現実の音楽を聴いているような感じになることをいう。臨場感という適切な日本語もある。前回述べた音像や定位の明確さ、適度な響き感と音の広がりなどが、臨場感を左右する要素である。
 2.パースペクティブ もとは写真用語で、距離感や空間が立体的に表現された状況をいうことから、ステレオの世界でも左右への広がりだけでなく、音全体の深みや各音像の距離感なども再現された時は、優れたパースペクティブを持つ音という。筆者にとっては最も重要な音の良さの条件である。
 3.スピード感あるいはハイスピード 「スピード感あふれる再生音」というように、音質を表現するのに、最近しばしば使われる言葉のひとつ。しいて解釈すれば、歯切れよくクッキリした音ということになろうか。だが、まったく抽象的でかつ私語的表現であり、その内容は人によりそれぞれ多少違うと考えた方がよい。つまり速度とはいっても、物理的な速度とは関係なく、高速という言葉から生ずる雰囲気を持つ音(?)といえばよいか……。乱用は避けたい言葉のひとつだ。
 4.バランス 周波数帯域バランスの略語。人が聴くことのできる周波数範囲の中心は約800Hz ぐらいで、これは時報のポーンと最後に鳴る音の高さとほぼ同じである。バランスの良い音とは、この高さの音を中心にして高い方、低い方にほぼ同じオクターブ(周波数比が2対1の関係)数の範囲を再生している音のことをいう。
 再生範囲が高い方だけ広がれば、音としては高音の強まった音になり、その逆だとこもったような音になる。全再生帯域はもちろん広い方がよいが、聴き心地の自然さはこのバランスの良否で左右される。

=おわり



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