リン・ラセル(1499-MT6)PCクエストノベル(2人)[文章:高原恵]

水の都で、ふたり

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 1499 / リン・ラセル / 女
  / エマーン / 17 / 学生兼トーブ家ファクトリーのアルバイター 】
【 3502 / レンヌ・トーブ / 女
  / 異界人(エマーン) / 15 / 異界職(「トーブ家ファクトリー」の主任代行) 】

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●アクアーネ村のこと【0】
 聖都エルザードより南東方向、けれどもそうは遠くない場所――アクアーネ村があるのはそんな場所だった。
 アクアーネ村はエルザードとのその位置関係から、小さいながらも他地域との中継地点という役割を担っている。またそれと同時に、有名な観光地という顔も持っていた。
 村中に張り巡らされた運河にゴンドラが揺れるというこの村特有の光景、それと夏でもどこか涼しさを思わせる村中に漂う水の香りが、観光客を呼び集めていると言っていいかもしれない。何もせず寝転がり、1日中ゴンドラに揺られている観光客の姿も時折見かける訳だから。
 運河も一朝一夕に出来た物ではなく、村共々古い歴史があった。ゆえにたまに遺跡が発見され大騒ぎになることもあるのだが……それはまた別の話。
 ともあれ水によって生かされるこの村のことを、次のように呼ぶ者は少なくない。
 『水の都』と――。

●気の向くまま歩いてみよう【1】
 この日も、アクアーネ村には観光客たちの姿が見られた。1人旅の最中らしき若者、若い両親と子供という家族連れ、仲睦まじい様子の老夫婦などなどといった具合に。
リン:「レンヌさん、皆楽しそうですよ」
レンヌ:「そうね、リン。笑顔だもの、皆」
 その観光客の中に、リン・ラセルとレンヌ・トーブの2人の姿もあった。今日は2人一緒に、アクアーネ村へと観光に来ていたのである。
リン:「きっとお天気もとてもいいからですね」
 空を仰ぐリン。村の上空には見事な青空が広がっていた。まかり間違っても、今日1日天気が崩れることはなさそうだ。もっとも魔法なり使われたら分からないけれども、そんなことする輩も居ないだろう。
レンヌ:「それで、これからどうしましょうかしら?」
 レンヌがリンの方を向いて言った。アクアーネ村にやってきたはいいが、予め決めていたのはそのことだけ。どうやって過ごすかについては、村に着いてから追々決めようということになっていたのだった。
リン:「ええと……」
 小首を傾げ、リンが少し思案する。そして、笑顔でレンヌに言った。
リン:「とりあえず、村を一回りしてみましょうか? 何か面白い物があるかもしれないです」
レンヌ:「そうね。別に急ぐ理由もないのだしね」
 くすっとレンヌが笑った。そう、時間に追われている訳ではない。ゆっくり過ごしても何ら問題はなかった。
リン:「では、あちらからぐるりと回りましょう」
 きょろきょろと辺りを見回してから、リンは人通りの少なめな方の道を選んだ。人が少ない方が静かで歩きやすいとも思ったのだ。もちろん人通りが多いのもそれはそれでよいのだけれど、今日はこうしたい気分だったのである。
 そして、並んで歩き出す2人。他愛のない会話を交わしながらてくてく、てくてくと。
レンヌ:「……空気が美味しいわ」
 すぅ……と息を吸い込み、レンヌがぽそっと言った。こくこくと頷くリン。
リン:「水の香りも……うん、強いです」
 さすが『水の都』、村の中で水の香りを感じないのは窓も扉も締め切った屋内くらいではなかろうか。だがこういった環境が、アクアーネ村をまた独特の雰囲気に包んでいる訳で。
 運河にかかった橋をいくつも歩き、時には運河を進むゴンドラに向かって橋の上から手を振ってみたりと、ただ歩きながらも2人は楽しんでいた。
 そうやって村の半分近くを歩いてきた時のこと。レンヌが何かに気付いた。
レンヌ:「あら? リン、何か聞こえないかしら?」
 ほんの一瞬、何かの鳴き声らしきものがレンヌの耳に聞こえたのだ。その言葉を聞いて、リンも耳を澄ませてみる。
リン:「……泣いていませんか?」
 それは鳴き声というより泣き声。誰か泣いている者がこの近くに居るのだ。
リン:「たぶん……」
 泣き声の聞こえた方へと、小首を傾げながらゆっくり歩き出すリン。
レンヌ:「あ、待って。私も行くわ」
 レンヌもリンの後を追って歩いてゆく。
リン:「ここを曲がって……」
 リンが建物の角を曲がると、そこにはくすんくすんと泣いている小さな女の子が1人。
女の子:「ぐす……ママァ……パパァ……ぐす……」
 リンとレンヌは顔を見合わせると、すぐにその泣いている女の子のそばへ行ってあげた。
レンヌ:「こんな所に1人で泣いていて……どうしたの?」
 最初に女の子に声をかけたのはレンヌの方だった。次いで、リンが女の子と目の高さを合わせるように身を屈めて声をかける。
リン:「パパやママとはぐれちゃったんですか?」
 すると女の子は、泣きながらもこくっと頷いて答えた。
女の子:「ねこさんおいかけてたら……パパとママいないの……ぐすっ……」
レンヌ:「なるほど、そういうことなのね」
 女の子の言葉でピンときたレンヌ。思うにこの女の子、両親が目を離していた時にでもたまたま近くを歩いていた猫に興味を奪われ、ついつい追いかけていってしまって気付いたら自分がどこに居るのか分からなくなってしまった……といった所だろう。
リン:「……ご両親探してあげませんか、レンヌさん?」
 リンがレンヌの顔を見て言った。確かに、小さな女の子1人だけここに放っておく訳にはゆかない。
レンヌ:「そうね。きっと、そう遠くには居ないはずよね」
 子供の足だ。猫を追いかけていたといっても、さほど距離を進んだとも思えない。それに橋を渡ったかどうかなど女の子に聞けば、自ずと捜索範囲も狭まるはずである。
リン:「じゃあ、お姉ちゃんたちと一緒にパパとママ探しましょうか」
 にこっと女の子に笑顔を向けるリン。その後ろからレンヌも微笑みを向けた。
女の子:「……うん」
 そこでようやく、女の子が泣き止んだ。

●水の流れに揺られながら【2】
 女の子を間に挟んで手を繋ぎ、両親を探して歩くリンとレンヌ。女の子が橋を渡っていなかったこともあり、10分ほどで無事両親は見付かった。
女の子の母親:「どうもありがとうございました!」
女の子の父親:「ありがとうございました。どこに行ってしまったのか心配していたんですよ……見付かって本当によかった……」
女の子の母親:「何とお礼を言っていいか……」
 女の子を抱き締め、安堵の表情を浮かべていた両親は、何度もリンとレンヌに礼を述べた。
リン:「あ、いえ、そんな。でも見付かってよかったです」
レンヌ:「だけど小さな子供なんですから、これからは目を離さないでくださいね」
 レンヌがちょこっと釘を刺した。
女の子の父親:「ええ、それはもう」
女の子の母親:「これからは気を付けます」
女の子:「おねえちゃんたち、どうもありがとう!!」
 両親が見付かって笑顔になった女の子が、リンとレンヌに元気よく言った。そして2人は手を振ってこの家族と別れた。
リン:「本当……よかったです」
レンヌ:「ええ、本当によかったわ」
 2人の足は一番近いゴンドラの乗り場へ向かっていた。村を一回りするはずだったのが、迷子の女の子の両親を探すことで結局中断。この先はゴンドラに乗ってゆこうということになったのだ。
リン:「すみません、2人ですけれど乗せていただけますか?」
 客待ちをしていたゴンドラ漕ぎの老人にリンが声をかけた。
ゴンドラ漕ぎの老人:「ああいいとも。乗っておくれ」
 快諾するゴンドラ漕ぎの老人。そこで先にリンが乗り、レンヌに手を差し出した。
リン:「レンヌさん、足元揺れますから気を付けてください」
レンヌ:「ありがとう、リン」
 レンヌはリンに微笑みを向けると、差し出された手を取って注意深くゴンドラへ乗り込んだ。
ゴンドラ漕ぎの老人:「ほんじゃま、のんびりゆくかね」
 2人を乗せたゴンドラは、ゆっくりと運河の上を滑り出した。ゆらゆら、ゆらゆらと揺れながらゴンドラは進んでゆく。
レンヌ:「風が気持ちいいわねぇ……」
 運河の上には緩やかな風が吹いているようだ。レンヌの三つ編みが風を浴びてゆらりと揺れていた。
リン:「レンヌさん。水も澄んで綺麗です」
 運河を覗き込むと、リンの顔が滲みなく映し出されていた。さすが『水の都』、ただ水が多いだけではないということだ。
 少しして、リンは持ってきていたフルートを取り出して、ゆらゆら揺れるゴンドラの上で奏で始めた。フルートの澄んだ音色が周囲へと飛んでゆく。レンヌは目を閉じて心地よさげな面持ちで、リンのフルートの音に耳を傾けていた。音楽関連の学校に通っているだけあって、その音色はとてもよかった。
 そんな時だった。後方から別のゴンドラが大急ぎでやってきたのは。フルートを中断してリンが見てみると、そこには先程の女の子と両親の姿が。
女の子の父親:「ああ、追い付いてよかった!」
レンヌ:「まだ何かご用ですかしら?」
 レンヌが問いかけると、女の子が頭上にある物を掲げた。それはかごに入った果物だった。
女の子の母親:「先程のお礼にと思いまして……どうぞ受け取ってください」
リン:「え、でも……」
 一旦は固辞したものの、どうしてもということで2人はその果物の入ったかごを受け取ることになった。
女の子:「ばいばーい、おねえちゃんたち!!」
 女の子たちの乗ったゴンドラが離れてゆく。女の子はぶんぶんとリンとレンヌに手を振り続けていた。
レンヌ:「リン」
 果物を手に、レンヌがリンに声をかけた。
リン:「はい?」
レンヌ:「今日はいい日になりましたわね」
リン:「はいっ!」
 リンが元気よく答える。2人の顔には優しい笑顔が浮かんでいた――。

【水の都で、ふたり おしまい】


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