犬の椎間板へルニアと リハビリテーション
イヌの胸腰部椎間板ヘルニアは人と異なり突然に発症します。その症状は軽い腰の痛みから、起立不能、完全麻痺まで様々ですが、いずれも早期診断専門的治療を必要とします。

好発犬種・・・ダックスフンド、ウエルシュコーギー、ビーグル、シーズー、ペギニーズなど
        (他に、柴犬、フレンチブルドッグ、ビションフリーゼ、プードルなどで発症例あり)
好発年齢・・・4〜7歳(当院で1〜14歳まで症例あり)

右の様に、ダックスフンドが突然後足が立てなくなったら
99%以上椎間板ヘルニアと言っても過言ではありません。

症状は主に以下の5つに分類されます。

グレード1 痛みのみ
グレード2 不全麻痺(歩行可能)
グレード3 不全麻痺(歩行不能)
グレード4 対麻痺
グレード5 完全麻痺(深部痛覚消失)

治療は内科療法と外科療法に分かれます。
軽度の麻痺であれば1か月間の投薬と厳密なケージレスト、さらに2〜4週間の安静で治療できますが、歩行困難、あるいは起立困難な場合は迅速な手術が必要となります。ただしダックスフンドは内科療法で歩けるようになっても飛び出した髄核が大きく迅速な摘出手術が必要なことがあるため要注意です。首や腰の痛みが再発した場合も早期のCT検査が必要です。

摘出手術をするためにまず椎間板ヘルニアの発症部位を特定する必要がありますので、脊椎のCT検査が必要です。動物のCT検査は全身麻酔下で行われます。当院ではCT検査と手術が同時に可能なので1度の麻酔で診断と治療が可能です。


CT検査により、脊椎内に大量の髄核逸脱が脊髄神経を著しく圧迫していることが容易に分かりますので、手術により脊椎に穴を開けて、髄核を可能な限り、しかも早期に摘出する必要があります。

これを手術部位を誤ったり、内科療法で様子を見てしまうと、神経機能は回復せずに手遅れとなり、車椅子による生活を生涯おくらなければならなくなってしまいます。

MPRによる矢状段像です
第1腰椎に広範囲に髄核が逸脱している様子が明瞭に確認できます。

これで手術部位の特定が出来ましたので、最小限の切開による手術が可能となります。

手術後の早期リハビリテーションを見越して、脊椎の切除範囲は最小限に行う必要があります。必要以上に脊椎を切除すると背骨に歪みが生じてリハビリが出来なくなってしまうためです。

最大でも2椎間以内の切除に留めます。

最小限の脊椎切除により、髄核をほぼ完全に除去できたことが術後CT検査により確認できました。CT検査が手術と同時に行えることは髄核の取り残しを未然に防げるという大きなメリットがあります。

手術を受けたにも関わらず歩けない原因の殆どは髄核の取り残しですがCT検査なしでは取り残しの確認は不可能です。

これで脊髄の圧迫が完全に解除されましたので、神経の回復が期待できます。

なお重度の椎間板ヘルニアは脊髄軟化症を起こすことがありますが、進行すれば死に至ることがあります。

手術時にはライト付きの2.5倍拡大鏡を装着することで手術部位に対して良好な視界が得られます。

ミニチュアダックスフンドの脊髄はわずか直径4o程度です。髄核を除去するときに脊髄神経を傷つけないように1o単位の繊細な操作が必要ですが、拡大鏡を用いた手術には直視下の手術とは違った指先の感覚が必要なために、多くの経験を積む必要があります。

手術後14日程度で抜糸しますが、その段階で左のダックスのように後足が起立困難な場合は早期リハビリテーションが必要となります。

早期にリハビリを行わないと神経、筋肉は萎縮し、関節は固くなり、二度と歩けなくなってしまいます。さらに陰部周囲は尿漏れで皮膚炎を起こしてしまいます。

脊椎内から除去した髄核です。このようなわずか1〜2ミリの塊が重大な麻痺を起します。

標準的なダックスフンドにて拡大鏡を使用した一椎間の切除に必要な皮膚切開はわずか3センチです。

当院では2010年に福井県内の動物病院で初めてリハビリ専用の水中トレッドミル装置を導入しました。

犬の大きさにあったライフジャケットを着用して体が浮きすぎない程度の水深になるよう調整しながら歩行訓練を始めます。

しかしながら後足が全く動かない状態からのスタートですので両後肢の動きを介助してあげる必要があります。

当院では1日につき10分間の歩行訓練を休憩を入れながら4セット行います。

後足が動くようになるまで最大で3ヶ月要する場合があります。それまで週に2〜3回はリハビリ通院してもらう必要があります。

飼主さんも愛犬が歩けるようになる日が来るのを信じて、根気強く通ってもらう必要があります。

スタッフも中腰姿勢が1時間続きますので、自分の腰を傷めないよう注意します。

体を乾かしたのちに、関節の拘縮を防ぐために、関節マッサージ(他動的ROM)を片足につき15分ずつ、両足で計30分行います。

ROMとはRange of Motion (関節可動域)の略で、疼痛疾患や神経障害によって、本来の関節の 動き(屈曲・伸展)ができない場合、人の手で関節の可動域を広げるリハビリです。

さらに両後肢の筋肉が委縮しないように、電気刺激療法を行います。これも片足につき15分、両足で計30分行います。

ここまででスタッフ2人がかりで3時間を要しますのでリハビリは完全予約制となります。

通院のない日は自宅でも飼主さんに可能な範囲でのリハビリをしてもらいます。

リハビリのコツは疲れさせない程度に、細く長く根気強く継続する事です。

ようやく両後肢が動くようになって来ました。

さらに水深を下げて、傾斜をつけ、スピードを上げることで負荷を大きくしていきます。

両後肢の介助も必要なくなりました。
リハビリ中も余裕のカメラ目線です。

余談ですが、当院ではレーザー療法は実施しません。あれは痛みの軽減には効果がありますが、神経機能の回復には殆ど効果が期待できません。レーザーが骨を通過出来ないからです。

滑りやすい病院の床でさえ走れるくらいに歩行可能となりました。

これでリハビリ通院は終了です。

元気に走れるようになってよかったね!

飼主さんも3ヶ月の通院お疲れ様でした。

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16列マルチスライスCT検査による迅速かつ精度の高い診断と、拡大鏡を用いた精密な手術と、早期リハビリテーションの導入により、術後の回復がグレード4でほぼ100%、深部痛覚の消失したグレード5で約70%が歩行可能となり、トップクラスの成果を上げられるようになりました。
脊髄軟化症のダックスフンドでも40%が歩行可能となった実績があります。(2011年に学会発表済)


頸部椎間板ヘルニア手術にも実績がありますので、いずれHP上でご紹介致します。